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第四章 第四節 ヤマト襲撃される

第1012話 身体の部位が欠損したらそれでおしまい

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「はん、腕一本うしなった代償としては悪くないンじゃないの。どうせ、STAP培養細胞かバイオ・メカニックスで再生したんでしょうし」

 イシカワが右腕をすこしもちあげて、すこし自慢げに言った。
『最新のハイブリッド方式さね。生身の質感に、マシンの増幅されたパワーの両方さ』
 そう言うと、エア・バイクを破壊された階段に接触する寸前まで近づけながら、その自慢の右腕をアスカのほうへさしだした。アスカはその手を一瞬にらみつけたが、すぐに手を伸ばしてつかむと、その勢いのままバイクの後部座席にからだを滑り込ませた。
 その瞬間を狙いすませたように、下層から数発の弾丸が撃ち込まれてきたが、バイクの底部にある超流動斥力波発生プレートにあたって、乾いた音をたてただけだった。トグロが階段からからだを乗り出して、下の階にむけて迎撃する。
 アスカはその様子を横目にみながら話を続けた。
「いいわね。選択肢があって。あたしたちはもし身体のどこかの部位が欠損したら、それでおしまい」
『おしまい?  STAP培養細胞を使えば元通りになるんじゃねぇのかい』
 イシカワはすぐにバイクを上昇させると、安全な屋上へバイクを移動させた。屋上が見えてくると、エア・モービルに乗ったキラとクララの姿が見えた。

「ならないの」
 クララが車内から小刻みに手をふってきた。アスカはそれに応えながら続けた。

「そりゃ、見た目は完璧に元通りよ。でもね、なぜか純血率がおおきく落ち込むの。自分の細胞を培養して作りだしてるはずなのにね」
『つまり、パイロットとしての資格をうしなうってことですかい?』
「そ! 亜獣との戦いがはじまって、長い間研究されてきたけど、これだけは解決できなかった。戦いで大怪我をおったパイロットが、引退を余儀なくされるのはそのせい」
『じゃあ、アスカも……』

「マージンがないから、指の2、3本もうしなったらアウトだと思うわ。自分のクローンでもいないかぎり無理ね」
『クローンねぇ。そりゃ、難しいやね』

「そうよ。400年も前から、国際法で研究・開発を禁止されてるんだもの……」
 アスカは後部座席から屋上へ降りながら言った。

「だから腕の一本、二本、犠牲にしてでも、あたしたちを守ってもらわないと困るのよ」


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 バットーの手際はみとれるほどに見事だった。
 エア・バイクで室内に侵入すると、バイクから転がるようにして飛び降りると、レーザー銃を数発、ヤタの素体に撃ち込んでから、ゆっくりと近づいてきた。
 素体は脚を砕かれて前のめり状態だったが、追撃をうけてそのまま床に崩れ落ちた。複数の動力源を狙い撃ちされていた。これなら動かせたとしても、指先数本というところだろう。
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