上 下
991 / 1,035
第四章 第四節 ヤマト襲撃される

第990話 怒り狂うダイ・ラッキー

しおりを挟む
 ケイの考察はばかばかしいことこの上なかった。
 頭から怒鳴りつけたいところだったが、可能性がゼロではない、と考えれば、駄目元で探ってみる必要があった。
 それほどあり得ない可能性にすがるほど、アルは追い詰められていた。

 アルは秘匿回路をつかって、ダイ・ラッキー・ワン、日本名『銭形幸一』に連絡をとることにした。彼はおそろしく不機嫌だった。

「あぁ…… 三代目か。なんか俺様に用事があるのか?」
「おい、おい、ダイ・ラッキー……なにかあったのか?」
「あったのか? アル、勘弁してくれよ。おめえンとこの小僧っ子どものせいで、俺様がいまどんな目にあってるか、知ってるだろ?」
「あ、いや……ああ……ニュースでな」

「ああ、そうだ。ブレイン・ドラッグの原本になるリュウ・リョウマの『ドラゴンズ・ボール』をおしゃかにされてから、俺様は不運続き……いや、あのヤマト・タケルのせいで、俺様の組織は壊滅寸前まで追い込まれてるんだよ」
「あ、ああ……当局があんたンところの根城のいくつかを……」
「いくつかじゃねぇ。13箇所だ! 20箇所のアジトの半分を潰された。AIの監視を一時的に撹乱する施設も接収されて、チップ埋込者エンベッデッドの顧客リストを押収されちまった」
「ああ…… ここ数十年なかった世界レベルのスキャンダルらしいな。ニュースに疎いおれにも聞こえてきてるくらい……」

「オレ様は許さねぇ」

「ちょ、ちょっと待てや。なにを許さな……」

「ヤマト・タケルを許さねぇよ」
「おい、おい。ダイ・ラッキー。ちぃとは頭を冷やせ。おめえさんがタケルを恨む気持ちはわかるがな、あいつは今、この世界を、この地球を守っているンだ。万が一にもタケルになにかがあったら、地球が滅亡する可能性があるほどだ。100億の人類でもっとも大事な人物なんだぜ。わかってン……」

「そんなの関係ねぇよ。どっちにしろと、俺様は遅かれ早かれ終わっちまうンだ」

「待て、待て! おまえさんの組織が終わるのは気の毒だと思うがな、地球を道連れってぇのは、いくらなんでも了見、狭すぎじゃねぇか?」
「なにを言われてもかまわねぇ、俺様にはおンなじなんだよ。おまえさんがたチップ埋込者エンベッデッドと違って、おれたちゃよく生きて100年しか生きられねぇンだ」
「たしかにそうだが、それでもまだ数十年は余裕が……」

「刑務所で過ごす数十年だよ」

 アルは凄みのあるダイ・ラッキーの声に、おもわずごくりと固唾かたずを飲みこんだ。

「しかも確実に市に近づいて、老いていく数十年だ。チップ埋込者エンベッデッドのおまえと違ってな」
「いや……」

「おまえさんがどう言いつくろうと関係ねぇよ」
 
「オレ様はぜったいにヤマト・タケルを許さねぇからな」
 ダイ・ラッキーの睨み据えた目は、すこし血走っていて、腹をくくったような不退転の覚悟が見てとれた。

 アルはゾクッと鳥肌がたつのを感じた。
しおりを挟む

処理中です...