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第四章 第四節 ヤマト襲撃される

第989話 アルに与えられた猶予期

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 73日——

 それがアルに与えられた猶予期間だった。
 2ヶ月以上もある、とも言えたが、たったそれだけの期間で、亜獣の体組成の成分のちがいを識別して、特定の部位にだけ効果を発する爆弾を開発しなければならない、のはおおきなプレッシャーだった。

 金田日博士や春日リンらの協力も仰いだが、明確な解決方法にはたどり着けずにいた。火星で爆縮爆弾を開発した研究者にもあたったが、亡くなったヤマトたちの母親が携わっていたことで機密扱いとなっており、詳細を聞くことはできなかった。

「そんなの教えてくれるわけないじゃない」
 そのことで愚痴をこぼすと、春日リンが当然という顔をした。
火星星系マーズ・サイドの技術でしょう。わたしだっておなじ立場だったら、極力秘匿するわよ。あの爆縮爆弾を提供してもらっただけでも驚くほどだわ」

 横にいた舎利弗 小人とどろき・しょうとも口をとがらした。
「そうですよね。そもそもセラ・マーキュリーが火星にあることを、われわれが聞かされてなかった時点で、火星星系マーズ・サイドは信じられませんよ」
「そうね。こちらでは破棄されたことにされてたものね」
 それを口火にしてしばらく、リンとしょうとの不満を聞くはめになり、アルの焦りはますます募ることになった。

 研究室の面々、とりわけ玄羽介くろう・けいは、武器の開発に熱心だったが、亜獣の体組成の微細な違いを切り分ける方法に苦戦していた。

「アルさん、亜獣は亜獣っすよね。どこか特定の成分をピンポイントで狙い撃ちするだなんてムリっすよ。やっぱパイロットにがんばってもらって、体組成が核を取り巻く前に、核を握りつぶしてもらうしかないっすよ」
「ばかやろう。そんなこと、タケルたちに言えねぇよ。それにあの核は一瞬で握りつぶせるような代物でもねぇ。どっちにしろある程度の時間を確保しねぇと、あの亜獣を倒せねぇんだよ」
「せめて各部分の体組成分の残留物でもあれば、ほかの成分との差異が特定できるンすけどねぇ」
「ケイ、すまんがな、そんなものどうやって手に入れるってんだ。国際連邦軍でも入手できねぇんだ」
「おことばですが、アルさん。国際連邦軍だから手に入れられないってことないですか?」

「ど、どういうことだ」
「だって2回の戦いはすべて宇宙で起きてることでしょう。地球を守る国際連邦軍の管轄じゃない。だから火星星系マーズ・サイドの連中は非協力的なんスよ。月の連中だって、ぶっちゃけて言えば地球星系アース・サイドじゃない」

「ーーってことは、火星星系マーズ・サイド連中は地球側に、なにか隠してるって言うのか?」

「もしかしたら……ですよ。それに彼らは火星星系マーズ・サイドじゃなくて、もはや宇宙系スペース・サイドと呼ぶべきでしょうね」
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