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第四章 第三節 Z.P.G.(25世紀のルール)

第983話 くそぅ! 核を潰せていれば!

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 間に合わなかった——
   
 マンゲツがそれを掴んだとき、その核は先ほどの剥き出しの姿ではなくなっていた。どこから湧いてでたのか、と思うほどの量の粒子が核を包み込んでいた。

 一瞬のうちに——?

 ほんの一瞬と思える時間のうちに、核は人間サイズからスカイモービルサイズになっていた。それだけの粒子が一気に引寄せられたということだ。クララはおもわず目を見開いたが、マンゲツのまわりにそれどころではないほどの粒子が、まとわりついているがわかった。
 クララが跳ね飛ばした亜獣の腕、ヤマトが切断した頭や胸部、そして何度も斬りつけスライスした胴体の肉が、分解され粒子となってマンゲツの手元に押し寄せてきていた。
 幻想的ともいえる光景——

「嘘でしょ……」
 
 クララはその情景になかば見とれそうになった。が、キラの声が正気を呼び起こした。

「クララお姉さま、足が分解してるわ!」

 クララは目の前にうつ伏せで倒れている亜獣の下半身に目をむけた。キラの指摘どおりだった。先ほどまで本体だったはずの下半身部分が、勝手に崩壊し、粒子状に変貌していた。そして、ヤマトの手元の『核』にむかって、ぱらぱらと飛翔しはじめていた。

「くそぅ! その核を潰せていれば!」
 金田日の悔しそうな声が聞こえた。だがまるでクララとヤマトがもたもたして、好機を逸したかのような口ぶりだった。イラッとした。クララは抗議しようと口を開きかけたが、春日リンのほうが速かった。

「はじめちゃん、あなたの作戦ミスよね。その核の存在に気づいていながら、なんの策もさずけなかったんだから!」
「あ、いや……確信がもてなくて……」
「エドならたいした確信がない場合でも、まちがいなく事前に備えておいたわ」
「エドならって…… 春日博士……わたしはエドとはちがいます」
「ええ、ちがうわ。エドはどんなことがあっても、自分の落ち度をパイロットに押しつけようとはしなかった」
 モニタのむこうのいさかいは、金田日が黙り込んだところで終わった。

「もう一度、スライスして核をむきだしにします」

 ヤマトがサムライ・ソードをふりあげながら言った。すでに亜獣マガンジーはサイズは20メートルほどながら、完全体の姿にまで戻ってきていた。
「もう一度、ムチでバラバラにします!」
 クララはヤマトに呼応した。

「無駄ですわ!」
 キラの声が頭のなかに飛び込んできた。

「どうやら本体は、こっち側に移動してきているようですもの」
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