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第四章 第三節 Z.P.G.(25世紀のルール)

第965話 ミドルネームで名乗ったら?

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 レイのそっけない反応に、ミサトがレイの父親と顔を見合わせた。
 すこし視線でやりとりがあって、レイの父親がもう一度申し出た。

「レイ。オールマンの苗字で生きてきたから、それを棄てろとは言わない。だけど本来の苗字も名乗ってくれると嬉しい……んだが」
 レイは父親の申し出にすこし眉をひそめた。
 おそらくその提案を受け入れたくない、というより、なぜそれにこだわっているのか、がレイには不思議で仕方ないのだろう。
 アスカはその場の雰囲気がぎくしゃくしそうだと感じて、あわてて提言をした。
「ねぇ、レイ。せっかくお父さんが言ってるンだから聞いてあげたらぁ。ミドルネームとかそんなんで手をうってあげればいいじゃないのさ」
 
 おどろいたことにレイは素直にそれに従った。
「そう。じゃあ、それならいい」

「レイ・アムロ……オールマンと名乗ることにする」

 レイの父親の顔がうれしさに華やいだ。彼はこちらに目礼してから言った。
「レイ、ありがとう」

 それからしばらくレイは父親とふたりきりで、いろいろ話をすることになった。
 レイにとって初めての親子水入らずではあったが、遠めにみているかぎり、うまく会話が続いているようだった。

 アスカはその様子を眺めながら、とてつもない不安を感じていた。
 
 レイの母親が自分ひとりの寿命で、レイの命でまかなったとしたら、自分の場合はどうだったのだろうか?

 いや、自分たちの場合と言ったほうがただしい。
 自分と兄リョウマは双子だったのだ。
 二人分の命を父と母はどうやって、まかなったの——?

 そのとき、ふっと別のことが頭に浮かんだ。
 レイの母親が作戦本部に現われたとき、そこにいたほとんどのクルーがパニックに陥った光景。自分もレイの母親の幻影に足首を捉まれる恐怖体験をしたが、あのときのクルーの恐怖の表情には、モニタ越しとはいえどこか違和感を感じていた。

 老いさらばえた女が血まみれで迫ってきたのだから当たり前だ。

 そのときはそう思っていた。
 だがそれだけでなかったのだ——

 あれは生体チップが故障したり、破壊されたときの、自分たちのあるべき姿をかいま見たことへの恐怖だったのだ。リアルタイムでAIに管理されて、不老不死遺伝子『テロメア』を制御しているから、今の姿を保てている彼らチップ埋込者エンベッデッドにとって、己の本来の姿を目の当たりにすることは、血まみれの女に襲われること以上に恐怖をかきたてたに違いない。

 母に……母に会わねばならない。
 もし母がわたしたちの命の見返りを求められているとしたら——
 父に禁じられてもう母とは何年も会っていない。

 母はどこに……どこにいる……の……

 ふいに足ががくがくと震えた。
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