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第四章 第三節 Z.P.G.(25世紀のルール)

第962話 なぜ子供が少ないのか不思議に思ってました

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「そんなはずないわ!」
 まっさきに反論してきたのはアスカだった。
「だってあたしの父は生きているし、母だって……もう別れちゃって数年会ってないけど生きてる」

「もちろん例外はある。げんにぼくらがそうだ」
 そう言いながらヤマトはキラに目配せした。
「父と母が99・9%スリー・ナインの血筋だったからね。地球の危機に立ち向かえる存在は、特別扱いというわけさ」

「お兄さま。それはちがいますわ」
 キラが不機嫌そうな顔で言った。

「ちがう? キラ、なにがちがうんだい」
「無条件で出生を許されたのは、ひとり分の99・9%スリー・ナインだけ。つまりお兄さま、ひとりだけですわ」
「ぼく、ひとり?」
「あたくしがなぜお母様と一緒に火星へ行ったとお思い? ふたり目のあたくしは地球上に存在することを許されなかったからですわ」

「そうなのか?」
 ヤマトはおもわずキラをみつめた。
 自分がそれを知らなかった驚きもあったが、なぜ物心もつかない時期に、母と妹と離れ離れにならなくてはならなかったか、思い至らなかった自分に腹がたった。

「火星やスペース・コロニーには子供がたくさんいましてよ。あそこは『PG0法』の適用外とされてますからね」
「ええ、そうですわ。わたくしはコロニー育ちですからわかります」
 キラのことばにクララが相槌をうった。
「だから地球にきたとき、なぜ子供が少ないのか不思議に思っていました」

「クララくんもか。わたしもそう感じていた。というより、子供と思ったものが、インフォグラシズで見ると、精巧なロボットだったことに違和感を覚えていた」

「で、タケル。なぜわたしは父親が現われたことで、みんなに冷やかな視線を浴びなければならないのか教えて」
 レイは話がそれるのに、あきらかに業を煮やしている様子だった。

「レイ。みんなのその反応はきみにむけられたものじゃない。おそらくきみの父親にむけられたものだ。でもそれはどうしようもないんだ。チップ埋込者エンベッデッド』なら、だれもが本能的にそうなってしまう」
「どういうこと?」
「きみの両親は自分たちの寿命を犠牲にして、きみという子供をもつ許可を得た。だけどきみのお父さんは記憶喪失と生体チップの破損のせいで、その責任をきみのお母さんひとりに背負わせることになったんだ。もしかしたら不幸な事故だったのかもしれないけど、チップ埋込者エンベッデッドの連中からすれば、ひとごとではないのだろうね」

「なんて無責任な父親だ、ってこと?」

「ああ。そんなところだろうね。みんな、そこに理不尽さや不誠実さを感じ、嫌悪感を募らせて、ついきみにそれを向けた……」
「なによ。レイこそが被害者なのに!」
「そうです。レイさんの気持ちを察して欲しいですわ」

「タケル。じゃあ、お父さんがこんなことにならなければ、お母さんは『PG0法』のせいで死なずに済んだし、わたしは育児院に送られずに済んだってこと?」
「そうだね。すくなくともこんなに早く母親と別れずに済んだと思う。きみのお父さんのの寿命をさしだせてれば、もう少し長く一緒にいられたはずだ」
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