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第四章 第三節 Z.P.G.(25世紀のルール)
第959話 ZPG法
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「レイ。あなたのお父様が見つかったの」
ミサトとリンに呼び出されたレイは、もっとも自分に似つかわしくないことばをミサトの口から聞いた。今までの人生で一度たりとも想像すらしたこともないことば。不意打ちすぎて、思考や行動が完全に停止した。
これがゲームなら、何かのバグがエラーがあったのだと確信して、追求してやったはずだが、現実となればそれに対抗するすべはなかった。
「ミサト、言っている意味がわからない」
「わたしだってとまどっているのよ。だってあなたの経歴書のどこにも、あなたの父親ののことなんて記載されてないのよ」
ミサトは手に持ったペーパー端末をわざとらしく裏返してみせた。その無責任なパフォーマンスに、いたたまれなくなったのか、春日リンが横から口添えしてきた。
「あなたのお父様、つい先日まで生体チップが破損していたらしいの。そのせいで生来者扱いになってて、AI管理対象から外れて存在すらわからなかったの」
「リン、わたし、あなたの言っている意味もわからない」
レイは横に首をふりながらため息をついた。
ここにタケルやアスカたちがいたら、すぐに真意を汲みとって、わかりやすく説明してくれたにちがいなかったが、自分ひとりでは理解が追いつきそうもなかった。
「ミサト、あたしに母がいたことは憶えている。でも父の存在は記憶にない」
「そのとーりよ。もーびっくりったらないわ。だって育児院の記録では、あなたの父親は死んでいることになってたんだもの」
「育児院? ミサト、オールマン育児院に確認したの?」
「あったりまえでしょ。こちらも前代未聞の事態にちょっとパニクってんだから」
「で、死んだはずの父親が本物だっていう証拠はあったの?」
「申請書の筆跡が一致したの」
ミサトはレイの顔をじっと見つめて、まるで言いふくめるような口ぶりで言った。
「17年前にあなたのお母さんと一緒に提出していた『出産認可申請書』にね」
「出産認可申請書? 出生証明書じゃないの?」
レイはたわいのない間違いを正したつもりだったが、ミサトとリンが神妙な面持ちで顔を見あわせたのを見て、自分が知らないことがあると感づいた。
「なに? わたしが知らないことがあるのね。教えて、ミサト、リン」
はっきりとした問いかけを真正面からぶつけると、二人の困惑がますます深刻になったのがわかった。その視線の動きはお互いに責任をおしつけあっているようにも見える。
が、数度の目くばせすると、ミサトが観念したようにおおきく息を吐きだした。
「レイ、『PG0』って聞いたことある?」
「PG0? なにそれ?」
ミサトがばつが悪そうな顔をした。それをみてリンが代わりに説明をはじめた。
「今、この地球の人口は約100億人。食料や水の供給量は正直、これ以上増やすことができないギリギリを保っている状態なの」
「そうなの? 余裕があるようにみえるけど」
「21世紀くらいまでは、何億人もの飢えた人々の犠牲があって、先進国は飽食にふけることができたけど、この時代はそんなこと許されない。誰ひとりとして飢餓におびえることがない世界を維持することが、国際憲章でさだめられている」
「合成肉や培養食品なんて、工業製品みたいなもの。いくらでも増産できるでしょう」
「ええ。でもその上限が100億人なのよ」
「そう…… それはわかったわ。でもそれとわたしのお父さんが何の関係があるの?」
「この25世紀において、わたしたちチップ埋込者』は、超がつくほど長生きできることの代償として、子孫を残すことを許可されてないのよ」
レイは混乱した。
自分が育ったオールマン育児院には、それなりの数の子供たちがいたはずだ。
「その国際法が『ZPG』法。ゼロ・ポピューレーション・グロース、つまり『人口増加0』……」
ミサトが申し訳なさげな顔で続けた。
「レイ、あなたたち子供は本来、この地球上に産まれることを許されてない存在なのよ」
ミサトとリンに呼び出されたレイは、もっとも自分に似つかわしくないことばをミサトの口から聞いた。今までの人生で一度たりとも想像すらしたこともないことば。不意打ちすぎて、思考や行動が完全に停止した。
これがゲームなら、何かのバグがエラーがあったのだと確信して、追求してやったはずだが、現実となればそれに対抗するすべはなかった。
「ミサト、言っている意味がわからない」
「わたしだってとまどっているのよ。だってあなたの経歴書のどこにも、あなたの父親ののことなんて記載されてないのよ」
ミサトは手に持ったペーパー端末をわざとらしく裏返してみせた。その無責任なパフォーマンスに、いたたまれなくなったのか、春日リンが横から口添えしてきた。
「あなたのお父様、つい先日まで生体チップが破損していたらしいの。そのせいで生来者扱いになってて、AI管理対象から外れて存在すらわからなかったの」
「リン、わたし、あなたの言っている意味もわからない」
レイは横に首をふりながらため息をついた。
ここにタケルやアスカたちがいたら、すぐに真意を汲みとって、わかりやすく説明してくれたにちがいなかったが、自分ひとりでは理解が追いつきそうもなかった。
「ミサト、あたしに母がいたことは憶えている。でも父の存在は記憶にない」
「そのとーりよ。もーびっくりったらないわ。だって育児院の記録では、あなたの父親は死んでいることになってたんだもの」
「育児院? ミサト、オールマン育児院に確認したの?」
「あったりまえでしょ。こちらも前代未聞の事態にちょっとパニクってんだから」
「で、死んだはずの父親が本物だっていう証拠はあったの?」
「申請書の筆跡が一致したの」
ミサトはレイの顔をじっと見つめて、まるで言いふくめるような口ぶりで言った。
「17年前にあなたのお母さんと一緒に提出していた『出産認可申請書』にね」
「出産認可申請書? 出生証明書じゃないの?」
レイはたわいのない間違いを正したつもりだったが、ミサトとリンが神妙な面持ちで顔を見あわせたのを見て、自分が知らないことがあると感づいた。
「なに? わたしが知らないことがあるのね。教えて、ミサト、リン」
はっきりとした問いかけを真正面からぶつけると、二人の困惑がますます深刻になったのがわかった。その視線の動きはお互いに責任をおしつけあっているようにも見える。
が、数度の目くばせすると、ミサトが観念したようにおおきく息を吐きだした。
「レイ、『PG0』って聞いたことある?」
「PG0? なにそれ?」
ミサトがばつが悪そうな顔をした。それをみてリンが代わりに説明をはじめた。
「今、この地球の人口は約100億人。食料や水の供給量は正直、これ以上増やすことができないギリギリを保っている状態なの」
「そうなの? 余裕があるようにみえるけど」
「21世紀くらいまでは、何億人もの飢えた人々の犠牲があって、先進国は飽食にふけることができたけど、この時代はそんなこと許されない。誰ひとりとして飢餓におびえることがない世界を維持することが、国際憲章でさだめられている」
「合成肉や培養食品なんて、工業製品みたいなもの。いくらでも増産できるでしょう」
「ええ。でもその上限が100億人なのよ」
「そう…… それはわかったわ。でもそれとわたしのお父さんが何の関係があるの?」
「この25世紀において、わたしたちチップ埋込者』は、超がつくほど長生きできることの代償として、子孫を残すことを許可されてないのよ」
レイは混乱した。
自分が育ったオールマン育児院には、それなりの数の子供たちがいたはずだ。
「その国際法が『ZPG』法。ゼロ・ポピューレーション・グロース、つまり『人口増加0』……」
ミサトが申し訳なさげな顔で続けた。
「レイ、あなたたち子供は本来、この地球上に産まれることを許されてない存在なのよ」
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