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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い

第921話 タケル、あんたはまったくの別人なのよね

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「みんな、そろそろユウキがこの船に追いつきそうだ」

 ヤマトが落ちついた声で言った。
 アスカはヤマトの顔をまじまじと見てから言った。

「はー、タケル。あんたはまったくの別人なのよね。その顔覚えるの、苦労しそうだわ」
「そうですわね。なんの特徴もない、ただのイケメンですから……」
「わたしはもう覚えた。人ごみに紛れても、見つけ出す自信がある」

「レイ、そう言ってもらえると心強いよ。ぼくの顔はどうアレンジを加えても、気づかれるっていうことだからね」
 ヤマトがすこしうんざりして口調で言うと、セイントが皮肉交じりに言ってきた。
『きみの顔に似ているだけで、ののしられたり、暴行を受けたりするって事例があるからね。こちらも身バレのリスクを避けたいのさ』

「わかってはいるけど、あまりいい気分な話じゃないな。だけど仕方がない。みんなぼくのあたらしいこの顔を覚えておいてくれよ」

 カジノから移動して、甲板にでると、遠くに陸地がみえた。
「あれって、シチリア島でしょう。けっこう遠いンじゃない?」
 アスカが手でひさしをつくりながら言うと、クララが心配げに呟いた。
「あの距離、ユウキさんはつかまらずにここまでこれますの?」
「途中で捕まりそうになったら、海の底に沈めればいい」

「レイ、話はそう簡単じゃない。ダイ・ラッキーはこの程度の深度なら、サルベージするよ。そうなると、ぼくらがドラゴンズ・ボールを奪取するチャンスは永遠に失われるだろう。だけど……」

「心配しなくても、ユウキは間に合いそうだ」

 そう言いながら、ヤマトはかなたを指さした。
 そこには陽炎かげろうにゆらめくエア・バイクの車影らしきものがあった。まだ陽の光を反射する、ただの点でしかなかったが、背後におなじような点を10ほど従えているので、ユウキで間違いないはずだ。
「やだ、敵の数、けっこう多いじゃない」
「タケル。ユウキを援護したい。なにか武器はないの?」
 アスカとレイがほぼ同時に、自分の言いたいことを口にした。

「レイ、武器はない。ここは豪華客船で、ぼくらはその乗務員だ。武器なんか持っているはずだがない」
「タケルさん、ユウキさんが到着したらどうするつもりです?」
「簡単なことだ、クララ。ドラゴンズ・ボールを受け取る。そしたら、みんなバラバラにわかれて逃げる」

「逃げる? タケル、それだけ?」
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