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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い
第918話 やはりあなたが待ち構えていたのですね
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電磁パルス弾をヤタ本体に撃ち込むか、バイクだけにするのか、一瞬の迷いが生じた。
ヤタを身動きできなくするほうが、逃走においても優位になるはずだったが、これまでの経緯でどれだけヤタを倒しても、別の素体に憑依して、追いかけてくるので意味はない。
であれば、標的としておおきく、狙いをはずしにくいバイクを動作不能にするほうが現実的のはずだった。
それに動作不能にしたばかりにヤタの手から、ドラゴンズ・ボールを取りだせなくなった、という可能性も排除したかった。
エア・バイクから降りると、ヤタが待ち構えたように言った。
「やはり、上はヤマト・タケル、あなたが待ち構えていたのですね」
「待ち構えていた? いいや、いま来たばかりだよ」
「ふ、どうでもいいことです。わたしは逃げるすべをうしないました」
ヤマトは手をさしだしながら「じゃあ、ブツを返してもらおうか」と言った。意外なことに、ヤタはすなおにドラゴンズ・ボールをヤマトのほうへさしだした。
ヤマトはボールを受け取りながら苦笑した。
「ヤタ、やけに素直じゃないか」
「ああ。だってみんながすぐに取り戻してくれるからね」
「みんな?」
ヤタは不敵な笑みを浮かべたかと思うと、おおきな声で叫んだ。
「ヤマト・タケルだ! ここにヤマト・タケルがいるぞ!」
その瞬間、あたりの空気感がかわったのがわかった。素体に人格を憑依しているから、そんな曖昧な感覚のちがいなどセンサーでわかるはずもないのに、そう感じた。
いつのまにかまわりに人集りができていて、自分たちを取り囲んでいた。
それはそこに暮らしている生身の市民たちのはずだった。だが、その表情は重苦しく、敵意に満ちた視線だけがそこにあった。
「わたしの恋人は……ヤマト・タケルに殺された……」
よろよろと前に進みでてきた女性が、うわごとめいて呟いた。
「わたしは十人以上の友人をうしなった」
「オレは家族全員、奪われた」
取り巻いている人々の輪がゆっくりと縮まってくる。だれもがなにかに取り憑かれているように強ばり、表情をうしなっていたが、目だけはギラギラと憎悪にたぎっていた。
「みんな!! ここにいる全員の、いとしいひとを殺し、安寧を、幸せを奪った張本人、ヤマト・タケルだ。憎んでも憎みきれない、100万人殺し、ヤマト・タケルだぁぁ!」
ヤタが煽り立てる。
ヤマトはバイクのスロットルに手をかけた。
が、その手を市民たちが押さえつけた。
逃がしてなるものか、という不退転の意志が、顔に刻まれていた。
ヤマトは手を押さえている人たちの、腕をはらいのけた。
どよめきとともに、人々が手をひっこめる。
「また殺すのか! ヤマト・タケル! その手で無辜の市民をまた殺すのか!」
ヤタがまわりにいる人々に聞こえるように大声でがなりたてる。
「いいよ。やるがいい。あなたはいくらひとを殺しても、罪に問われない。特別な許可が与えられているからな。今度はこの島ごと沈めるかね」
ひとびとのあいだから、悲鳴まじりのどよめきがあがった。
ヤタを身動きできなくするほうが、逃走においても優位になるはずだったが、これまでの経緯でどれだけヤタを倒しても、別の素体に憑依して、追いかけてくるので意味はない。
であれば、標的としておおきく、狙いをはずしにくいバイクを動作不能にするほうが現実的のはずだった。
それに動作不能にしたばかりにヤタの手から、ドラゴンズ・ボールを取りだせなくなった、という可能性も排除したかった。
エア・バイクから降りると、ヤタが待ち構えたように言った。
「やはり、上はヤマト・タケル、あなたが待ち構えていたのですね」
「待ち構えていた? いいや、いま来たばかりだよ」
「ふ、どうでもいいことです。わたしは逃げるすべをうしないました」
ヤマトは手をさしだしながら「じゃあ、ブツを返してもらおうか」と言った。意外なことに、ヤタはすなおにドラゴンズ・ボールをヤマトのほうへさしだした。
ヤマトはボールを受け取りながら苦笑した。
「ヤタ、やけに素直じゃないか」
「ああ。だってみんながすぐに取り戻してくれるからね」
「みんな?」
ヤタは不敵な笑みを浮かべたかと思うと、おおきな声で叫んだ。
「ヤマト・タケルだ! ここにヤマト・タケルがいるぞ!」
その瞬間、あたりの空気感がかわったのがわかった。素体に人格を憑依しているから、そんな曖昧な感覚のちがいなどセンサーでわかるはずもないのに、そう感じた。
いつのまにかまわりに人集りができていて、自分たちを取り囲んでいた。
それはそこに暮らしている生身の市民たちのはずだった。だが、その表情は重苦しく、敵意に満ちた視線だけがそこにあった。
「わたしの恋人は……ヤマト・タケルに殺された……」
よろよろと前に進みでてきた女性が、うわごとめいて呟いた。
「わたしは十人以上の友人をうしなった」
「オレは家族全員、奪われた」
取り巻いている人々の輪がゆっくりと縮まってくる。だれもがなにかに取り憑かれているように強ばり、表情をうしなっていたが、目だけはギラギラと憎悪にたぎっていた。
「みんな!! ここにいる全員の、いとしいひとを殺し、安寧を、幸せを奪った張本人、ヤマト・タケルだ。憎んでも憎みきれない、100万人殺し、ヤマト・タケルだぁぁ!」
ヤタが煽り立てる。
ヤマトはバイクのスロットルに手をかけた。
が、その手を市民たちが押さえつけた。
逃がしてなるものか、という不退転の意志が、顔に刻まれていた。
ヤマトは手を押さえている人たちの、腕をはらいのけた。
どよめきとともに、人々が手をひっこめる。
「また殺すのか! ヤマト・タケル! その手で無辜の市民をまた殺すのか!」
ヤタがまわりにいる人々に聞こえるように大声でがなりたてる。
「いいよ。やるがいい。あなたはいくらひとを殺しても、罪に問われない。特別な許可が与えられているからな。今度はこの島ごと沈めるかね」
ひとびとのあいだから、悲鳴まじりのどよめきがあがった。
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