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第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い

第903話 アスカ! 上だ! 上にいる

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 ヤマトはひと息ついたが、車窓の外に目をやった途端、なにかが落ちてくるのに気づいた。
「アスカ! 上だ! 上にいる」

 その瞬間、車の両側でなにかが炸裂した。
 車がおおきく揺さぶられる。

「アスカ、なぜ感知できなかったの?」
「しかたないでしょ。一瞬、レーダーがブラックアウトしたのよ。だいたい電気も電波もこの地域は安定しないのよ」
「さっきのヤタは陽動か。この地域の特性を知っていて……」

 ふたたびなにかが落ちてきた。
 が、そのうちのひとつは車の屋根の上で、ボコンという音をたてた。
「まずい。アスカ、振り落とせ!」
 
 アスカが遠心力で屋根の上の爆弾を振り落とそうと、ハンドルを強引に切る。

 が、間に合わなかった。

 ドーンという耳をつんざくような音と共に、天井に穴が開いた。
 ヤマトはとっさにドラゴンズ・ボールを抱え込んでからだを伏せたが、背中がもろに爆発にさらされた。ベリベリという音がして、背中の表面がめくれあがったのがわかった。
 レイは天井にむけて引きがねを引こうとしたところで、爆発に巻込まれていた。頭こそ無事だったものの、左上半身が中身の機械がむきだしになるほど破壊されていた。すぐに動けなくなるのは、まちがいなかった。

「タケル! ドラゴンズ・ボールは!」
 運転席のアスカが叫んだ。アスカは後部座席とのあいだにある、シールドのおかげでまったくの無傷だった。

「大丈夫だ。とりあえず手元にある」

「それは助かりますわね」
 天井から声がした。

 穴があいた車の天井から、ヤタが顔をのぞかせていた。さっき車に乗っていたものから、別の素体に乗り移ったのは間違いなかった。

「ヤタ、素体から素体への入れ替わりが早いね」
「ヤマト・タケル、あなたがたほどではありませんわよ。さあ、そのドラゴンズ・ボールを返してくださいな」
「ヤタ。そう言われて返すわけないの知ってるよね」

「ですよね。まぁ、あまり手荒なまねはしたくないのですが……」
「よく言う。これだけ損傷を与えておいて」

「タケル。あいつを振り落とすわ。ボールをしっかり掴んでて!」
 アスカが早口で叫んだ。
 と同時に、車が急カーブした。
 からだがドアのほうへひっぱられる。

 外をみると、大通りから脇道へ無理やり侵入したのがわかった。
 相当の遠心力が加わったはずだったが、ヤタはまだ上にいた。

「アスカ、ダメだ。ヤタが振り落とせてない」
「わかってる!」

 そのとき車がガタガタと揺れはじめた。レイが声をあげる。

「アスカ、車が揺れてる。どうして?」
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