上 下
888 / 1,035
第四章 第二節 犯罪組織グランディスとの戦い

第886話 もしかしたら、自分より腕が上かもしれない

しおりを挟む
「ああ。ユウキくん。さきほどの図式の軌道は、地球へゆっくりと移動していることを指し示している」
「では地球で迎え撃てばいいのではありませんの?」

「クララくん。それも考えた。だがそれよりも宇宙で迎え撃ったほうが、人的被害が圧倒的に少ない。いままでは地球上のどこかに出現したから、犠牲は不可避だったが、地球に降りたたせないで済むなら、それにこしたことはない」
「だから宇宙戦を、ってわけぇ? まぁ、月面のアカデミーでも無重力での戦闘訓練は、さんざんやらされたからね。嫌いじゃないわ」
「無意味な訓練だと思ってましたけど、まさかここにいたって役にたつとは思いませんでしたわ」
 クララはアスカに続いてそう言うと、キラのほうをチラリとみた。

「まぁ、火星人マーシアンのキラさんには、敵わないかもしれませんが」

「まー、クララお姉さま。うれしい」
 キラは顔を赤らめてみせた。そんなことはできないはずだとわかっていたが、ヤマトには意図的にそうしてみせたように感じた。
「でも地上戦はまだ不慣れで、わたくしはお姉さまがたに学ぶことが多いですわ」

 
 それは嘘だった——


 キラは地上戦のシミュレーションでも、こちらが目を見張るほどの動きをみせた。順応性が高いのか、天性の勘の良さなのかはわからなかったが、みるみるうちに市街戦や空中戦、グループ戦をものにしていっていた。
 ただ最後だけはわざとタイミングや照準をはずして、先輩たちに華をもたせた。それがあまりに自然で、しかも0コンマ数秒レベルのずらし方なので、ヤマトも最初は気づかなかったほどだった。
 それはレイに教えられた。
 レイとバディを組んで、対S級亜獣戦に挑んだとき、レイがひとことヤマトに呟いた。

「あの子にフィニッシュをゆずられた」

 それからキラの戦い方を注視するようになったヤマトは、キラの戦闘能力の高さに目を見張った。初見の亜獣をたったひとりで、あっという間に葬ったのだから、当然と言えば当然なのだが、いつのまにかどこか下にみていたことに気づかされた。


 もしかしたら、自分より腕が上かもしれない——


 ヤマトはちょっとした焦りと、嬉しさを同時に覚えた。
 自分というエースがもし失われたとしても、キラという切り札がいる。まさにジョーカーといってもよかった。

 一週間後、ヤマトたちは月基地にむかった。
 亜獣の出現にそなえて、レイとユウキは地球待機を命じられた。リンは戦力バランスを考えてミサトに進言した、と言ったが、図らずも宇宙行きは女性チームとなっていた。
 うまく「お姉さま方」に気に入られたキラは、たしかにアスカともクララとも相性はよく、そのコンビネーションを試してみたいという上層部の意向も理解できた。

 軌道エレベータで上昇しているとき、アスカが尋ねてきた。
「ねぇ、タケル。あんた、宇宙での戦闘経験はあるの?」
しおりを挟む

処理中です...