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第四章 第一節 四解文書 第一節 それを知れば憤怒にかられる

第850話 グランディスの本拠地へ

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 ログインすると、見たことがない様相の街並みが目の前に現われた。
 荒廃した街。
 だが経年の劣化にまかせたあの地下都市とも、大津波に押し潰されたナポリの街ともややちがっていた。

 渾沌——

 ゴーストを通じてとはいえ、見るその街は、

 そこは目にふれるものすべてに、ルールや規律がなかった。
 おそらくイタリアのどこかだと思われた。

 朽ち果てたビルのいたるところに、イタリア語の看板が散見できたから、そう思えただけで、ヤマトにはそれを断言できそうもなかった。
 
 高さを競って建築されたビルは計画なく乱立しており、どこもかしこもが日陰になっていて、昼間なのに暗さを感じた。ほとんどのビルは窓ガラスやドアがなくなっており、どこもかしこも朽ちていた。
 地面には落ちてきた瓦礫がれきが散逸しており、不法投棄されたゴミや廃棄物と一緒くたになって、あちこちに小山を作っていた。そのなかには数世紀前の遺物というべきものもたくさんあった。

 環境に良いともてはやされながら、結局大量廃棄された電池で環境汚染を加速した電気自動車や、化石燃料でしか動かないガソリン車が並んでうち捨てられていた。

 数世紀のあいだ、ずっと人々が目をそむけてきた『都合のわるいもの』がおりとなって沈殿し、汚泥となってふきだまっているようでもあった。

 ヤマトはその街の威容にとまどいながらも、ほかのメンバーに伝えた。
「こらからスラム街の中枢にはいる。こちらは『ゴースト』を使ってるから、万が一住人にからまれても実害はない。だが、できるだけトラブルは避けたい。目立たないように頼む」

「タケルくん、了解だ。だが、こんな場所でゴーストを使うのはいいが、電波のほうは大丈夫なのかな」
「ああ、ユウキの心配はわかる。かなり電波は不安定だからね。だが現在、『セイント』が裏でリアルタイムで追従してくれている。追尾されないよう回線を切替えながら、電波が切れないようにもチェックしているはずだ」

「電波よりも電源のほうが心配」
 レイがぼそりと呟いた。
「そうですね。どうやら、このあたりまでワイヤレス電気は届いてないようです」
 クララがボロボロのビルの脇に取り付けられた、化石燃料式発電機を指さしながら言った。
「きみたちの言う通りだ。ぼくらにはあまり時間がない」
「どれくらい持つの?」
「レイ、このちいさなゴースト照射装置のバッテリ駆動だ。一時間程度というところかな」「そう……」

「なによ。そんな短時間でなにができるっていうのよぉ、タケル」

 

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思ったより長引きましたが、なんとか元気になりました。
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