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第四章 第一節 四解文書 第一節 それを知れば憤怒にかられる
第843話 25世紀の成り立ち2 〜すべて日本人のせい〜
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「考え方のちがいでしょ! それだけで、なんで日本人に、いろんな責任がおっかぶされてるわけぇ?」
「そうだよ、先生。今じゃあ、世界中のひとたちがチップを埋込んで、『エンベッデッド』になってるじゃないか」
アイの抗議にぼくも同調した。
「最初は『死なない』という選択肢に、倫理的な、もしくは宗教的な反対があいついだ。だが50年ほど経ったとき、隣にいる日本人が出会った頃の若々しさで、青春を謳歌し続けているのを横目でみて、世界中が嫉妬したんだ」
「嫉妬? どーいうこと?」
「アイくん、考えてもみたまえ。自分はもう死期が近づいているというのに、同級生の日本人は、学生の頃そのままの見た目で、夢や希望を語ってくるのだ……」
先生は手をひろげる大袈裟なジェスチャーで肩をすくめてみせた。
「どう考えても神から与えられた平等な『命』じゃない。不公平だ。みな、そう思ったのだよ」
「はん、勝手な話ね」
アイはあくまで腹がたっているスタンスをくずそうとしなかった。
「それで世界中のほとんどの国が、『死なない』という政策を採択したんだよ」
それからすぐに国際連邦という、あらたな枠組みのなかで、超長寿命に対するルールが作られた。
死なない、ための政策には欠点がいくつもあった。
このシステムでは個人のヴァイタルデータだけでなく、目で見たもの、耳で聞いたもの、しゃべったこと等、個人が体験したすべてのことが、リアルタイムでサーバーに送られ、解析され、蓄積され続けた。
これが特定の国、企業に漏れることは、あらたな紛争の火種になりかねなかった。
そのため、すべての管理は、完全にAIの管理下におかれ、個人、企業、国家であっても、プライバシーは絶対に守られることとなった。どんな高位の人物であっても、それがたとえ元首であっても、AIが正当であると判断したもの以外は、情報として提供を拒まれた。
絶対に人間の目に触れない——
それが原則だった。
「ひとが簡単に死なない、なら、悪党とか独裁者がずっとのさばるってことじゃない!」
「ああ、それは心配しなくてもいい、アイくん。憲章の冒頭で決められている」
「どうやってですか?」
「わるいことや、卑劣なことをおこなおうとしたら、からだが動かなくなるんだ」
「動かなくなる? どうやって?」
「それは先生もくわしくは知らない。そんな目にあったこともないしね。もちろん犯罪や悪いことを考えたくらいじゃあ、なにも起きない。だが実際に犯罪をおこなおうとしたら、からだが動かなくなるんだ」
「そうだよ、先生。今じゃあ、世界中のひとたちがチップを埋込んで、『エンベッデッド』になってるじゃないか」
アイの抗議にぼくも同調した。
「最初は『死なない』という選択肢に、倫理的な、もしくは宗教的な反対があいついだ。だが50年ほど経ったとき、隣にいる日本人が出会った頃の若々しさで、青春を謳歌し続けているのを横目でみて、世界中が嫉妬したんだ」
「嫉妬? どーいうこと?」
「アイくん、考えてもみたまえ。自分はもう死期が近づいているというのに、同級生の日本人は、学生の頃そのままの見た目で、夢や希望を語ってくるのだ……」
先生は手をひろげる大袈裟なジェスチャーで肩をすくめてみせた。
「どう考えても神から与えられた平等な『命』じゃない。不公平だ。みな、そう思ったのだよ」
「はん、勝手な話ね」
アイはあくまで腹がたっているスタンスをくずそうとしなかった。
「それで世界中のほとんどの国が、『死なない』という政策を採択したんだよ」
それからすぐに国際連邦という、あらたな枠組みのなかで、超長寿命に対するルールが作られた。
死なない、ための政策には欠点がいくつもあった。
このシステムでは個人のヴァイタルデータだけでなく、目で見たもの、耳で聞いたもの、しゃべったこと等、個人が体験したすべてのことが、リアルタイムでサーバーに送られ、解析され、蓄積され続けた。
これが特定の国、企業に漏れることは、あらたな紛争の火種になりかねなかった。
そのため、すべての管理は、完全にAIの管理下におかれ、個人、企業、国家であっても、プライバシーは絶対に守られることとなった。どんな高位の人物であっても、それがたとえ元首であっても、AIが正当であると判断したもの以外は、情報として提供を拒まれた。
絶対に人間の目に触れない——
それが原則だった。
「ひとが簡単に死なない、なら、悪党とか独裁者がずっとのさばるってことじゃない!」
「ああ、それは心配しなくてもいい、アイくん。憲章の冒頭で決められている」
「どうやってですか?」
「わるいことや、卑劣なことをおこなおうとしたら、からだが動かなくなるんだ」
「動かなくなる? どうやって?」
「それは先生もくわしくは知らない。そんな目にあったこともないしね。もちろん犯罪や悪いことを考えたくらいじゃあ、なにも起きない。だが実際に犯罪をおこなおうとしたら、からだが動かなくなるんだ」
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