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第三章 第七節 さよならアイ
第834話 金田日一の覚悟
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「わたしでいいのかな……」
金田日はアルがさしだした手を、ためらいながら握った。
「あたりまえさ。この地球にはあんたさんの力が必要だからね。もちろんオレもいろいろ助けてもらわにゃあならん」
「だけど、エドのようには……」
「あんたさんにはあんたさんのやり方でいいサ。お互いにうまくやる方法を考えようじゃねぇか。ここが噛みあわねぇと、地球が滅亡しちまうかもしれないし、なによりまずいこに……」
「リンさんにどやされる」
アルがいたずらっぽい顔で言った。金田日はおもわず破顔した。
「お手柔らかに頼むよ、三代目」
「よしてくんねぇか。三代目なんてぇーのは。アルでいいさ。そう呼んでくれ。だいたい本物の三代目はあんたさんのほうだろうがぁ。おじいさんは特に高名な学者さんだって、聞いてるぜ」
「ああ…… そうだね。この道に進んだのも、その血かもしれん。生態学の専門家だったということだからね」
「筋金入りってぇわけかい。頼もしい」
アルに満面の笑みで、肩をかるくたたかれて金田日は尋ねた。
「わたしはまずなにから手をつければいいのかな?」
「ああ……」
アルの顔がふいに曇った。いまのいま浮かべていた表情はなんだったんだ、というほどの変わりようだった。アルの目まぐるしい変わりっぷりに、金田日はとまどった。
「そいつは…… あとから正式に達しがくるだろうがよ。まずは通過儀礼があるのさ」
「通過儀礼?」
「なぁに、そんなに怖れるこっちゃねぇ」
「アル、そんな表情で言われては、不安にしかならないんだが」
「す、すまねぇな。大丈夫だとは思うが、過去の責任者候補で、その通過儀礼を抜けられなかった事例があるもんでな」
「なにかわからないが、きみも、エドもそれを通ってきたんだろ」
「ああ、もちろんさ」
「だったら、わたしだって、それを通っていけるさ。だいたい……」
「四解文書の一節を教えられる」
ことばが続かなかった。金田日は自分があうあうと口を動かしているだけで、声帯が震えていないことに気づいた。
「三人の責任者の極秘事項と専権事項を通達されると同時に、四解文書の一節を開示されるんだよ」
「ア、アル…… きみも、それを?」
「ああ。口にはできないし、思考でも、筆記でも伝えられないようプロテクトがかかっているがな。オレも一節を知らされている」
「そ、それはなぜ?」
金田日は自分の質問が的を射たものか、的外れなのか、まったくわからなかった。だがそう尋ねずにはおれなかった。
「責任者は、そこにある事実を知らなければ亜獣との戦いができない、と判断されたからさ」
「最初の頃はもっと多くの人員に知らされていたらしいがね。ほら、法王が突然死した事件、あれから選ばれた人間だけにしか開示しない形になったらしい。ごていねいにどんな状況でもひとに伝えられないように、強烈なプロテクトまでかけてな」
「わたしが教えられるのは、どの一節なんだ?」
「そいつぁ、オレも知らねぇ。だが安心してくんねぇ、すくなくとも……」
「エドは狂っちゃあいなかった」
金田日は目をつぶった。
エドとの日々を思い返す。彼は妄執にとりつかれてはいたが、狂ってはなかった。分析は冷静かつ的確で、そこから導きだされる戦略は、金田日には物足りなさがあったが、堅実でまちがいのないものだった。
「ああ、狂ってはなかった」
「だからあんたさんが知らされるのは、最後の一節じゃねぇってことだ」
「ああ、そうらしい」
「心配ねぇよ。金田日博士、問題なく戻ってこれるさ」
「アル。ありがとう。わたしは戻ってくるよ。エドのように最前線で戦いながら、亜獣の研究をしたい、という夢がはからずも叶ったんだ。出足でつまずくわけにはいかない」
「いい心構えだ。金田日博士、かならず戻ってきてくだせぇよ」
「ああ、大丈夫だ。かならずもどってくる……」
「じっちゃんの名にかけて」
金田日はアルがさしだした手を、ためらいながら握った。
「あたりまえさ。この地球にはあんたさんの力が必要だからね。もちろんオレもいろいろ助けてもらわにゃあならん」
「だけど、エドのようには……」
「あんたさんにはあんたさんのやり方でいいサ。お互いにうまくやる方法を考えようじゃねぇか。ここが噛みあわねぇと、地球が滅亡しちまうかもしれないし、なによりまずいこに……」
「リンさんにどやされる」
アルがいたずらっぽい顔で言った。金田日はおもわず破顔した。
「お手柔らかに頼むよ、三代目」
「よしてくんねぇか。三代目なんてぇーのは。アルでいいさ。そう呼んでくれ。だいたい本物の三代目はあんたさんのほうだろうがぁ。おじいさんは特に高名な学者さんだって、聞いてるぜ」
「ああ…… そうだね。この道に進んだのも、その血かもしれん。生態学の専門家だったということだからね」
「筋金入りってぇわけかい。頼もしい」
アルに満面の笑みで、肩をかるくたたかれて金田日は尋ねた。
「わたしはまずなにから手をつければいいのかな?」
「ああ……」
アルの顔がふいに曇った。いまのいま浮かべていた表情はなんだったんだ、というほどの変わりようだった。アルの目まぐるしい変わりっぷりに、金田日はとまどった。
「そいつは…… あとから正式に達しがくるだろうがよ。まずは通過儀礼があるのさ」
「通過儀礼?」
「なぁに、そんなに怖れるこっちゃねぇ」
「アル、そんな表情で言われては、不安にしかならないんだが」
「す、すまねぇな。大丈夫だとは思うが、過去の責任者候補で、その通過儀礼を抜けられなかった事例があるもんでな」
「なにかわからないが、きみも、エドもそれを通ってきたんだろ」
「ああ、もちろんさ」
「だったら、わたしだって、それを通っていけるさ。だいたい……」
「四解文書の一節を教えられる」
ことばが続かなかった。金田日は自分があうあうと口を動かしているだけで、声帯が震えていないことに気づいた。
「三人の責任者の極秘事項と専権事項を通達されると同時に、四解文書の一節を開示されるんだよ」
「ア、アル…… きみも、それを?」
「ああ。口にはできないし、思考でも、筆記でも伝えられないようプロテクトがかかっているがな。オレも一節を知らされている」
「そ、それはなぜ?」
金田日は自分の質問が的を射たものか、的外れなのか、まったくわからなかった。だがそう尋ねずにはおれなかった。
「責任者は、そこにある事実を知らなければ亜獣との戦いができない、と判断されたからさ」
「最初の頃はもっと多くの人員に知らされていたらしいがね。ほら、法王が突然死した事件、あれから選ばれた人間だけにしか開示しない形になったらしい。ごていねいにどんな状況でもひとに伝えられないように、強烈なプロテクトまでかけてな」
「わたしが教えられるのは、どの一節なんだ?」
「そいつぁ、オレも知らねぇ。だが安心してくんねぇ、すくなくとも……」
「エドは狂っちゃあいなかった」
金田日は目をつぶった。
エドとの日々を思い返す。彼は妄執にとりつかれてはいたが、狂ってはなかった。分析は冷静かつ的確で、そこから導きだされる戦略は、金田日には物足りなさがあったが、堅実でまちがいのないものだった。
「ああ、狂ってはなかった」
「だからあんたさんが知らされるのは、最後の一節じゃねぇってことだ」
「ああ、そうらしい」
「心配ねぇよ。金田日博士、問題なく戻ってこれるさ」
「アル。ありがとう。わたしは戻ってくるよ。エドのように最前線で戦いながら、亜獣の研究をしたい、という夢がはからずも叶ったんだ。出足でつまずくわけにはいかない」
「いい心構えだ。金田日博士、かならず戻ってきてくだせぇよ」
「ああ、大丈夫だ。かならずもどってくる……」
「じっちゃんの名にかけて」
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