上 下
835 / 1,035
第三章 第七節 さよならアイ

第833話 草薙部隊の覚悟

しおりを挟む
「なんで、雁首揃えて見舞いなのかい?」

 病室にあらわれた草薙をみて、イシカワが不満げに声をあげた。草薙はすでにイシカワの病室に、先客が何人もいることに気づいて鼻をならした。

 そこにバットー、トグロ、サイトーたちがいた。なごんだ雰囲気からみるに、どうもすでに居座っているという程度には、長居しているようだった。

「右手は大丈夫か?」

 イシカワはこれみよがしに右腕を突き上げて、指を動かしてみせた。
「IPS培養の代替品ですからね。完璧とはいきませんが……ま、とくに支障はなさそうですわ」
「クローン代用は世界憲章で禁止されているからな。機械の腕よりは馴れやすいとは聞いている」
「軍に復帰できるレベルまで戻せるかはリハビリ次第ですが…… まぁぼちぼちやりますや」
「そうか、すまなかった」
「なんで姫が謝るんです」
「無茶をさせた」

 イシカワが目をひんむいて、バットーやトグロたちを見回した。
「おいおい、バットー、聞いたかい? 無茶させた、だと」
「ああ、そうだな」
「いままで無茶しかさせたことがないのに。謝られちゃあ、ケツの穴がこそばゆくなっちまうぜ」
「そうか。それでも今回、自分もふくめて、全員に無理をさせたと思う。みなご苦労だった」
「大佐、よしましょうや。だれも死ななかっただけでもめっけモンですぜ」

 バットーが言うと、トグロが追随した。
「そうですね。自分はブライト元司令護衛の件もあわせて、2回くらい死にかけてますからね。今回も命を落とさずに戻ってこれてほっとしてますよ」
「トグロ中佐はまだいいですよ。ぼくなんか囮にされたンですよ」
 サイトーがわざとらしく不満の声をあげた。
「サイトー、あんたの囮はまだマシだろ」
 イシカワが言った。
「姫がすぐに助けに来たんだから。あっしは単独で囮だぜ。姫とは長いつきあいだが、さすがにこいつは無茶がすぎると思ったぜ」
「そ、そうですよね」

「だが、それがたまらんのだよ」
 そのイシカワのことばにサイトーがぎょっとした表情を浮かべた。

「だって人間の身ひとつで、亜獣と戦ったんだぜ。いくら軍人だからと言っても、こんな体験できるヤツが何人いるっていう話だよ」
「ああ、たぶん…… そうはいねぇな」
 バットーが感慨深い表情で言った。

「オレも魔法少女なんて手強いヤツ相手に、生身で戦うなんて想像したこともなかったよ。かわいい名前をつけられちゃあいるが、ありゃ立派な亜獣だぜ。今回ほど武士の血をひいてることに、感謝したことなかったぜ」

「まぁ、やりがいは、ハンパないです。それは確かです」
 トグロが自分の肩をさすりながら言った。
「この部署へ移動を申請して、ほんとうによかったと思います。たとえ、肩をアンカーで射ぬかれたとしてもね」
「でもおかげでトグロ中佐は、いいひとと巡り合えたじゃないですか」
 サイトーが羨ましげに言うと、バットーがうんざりした口調で続けた。

「ま、命がいくつあっても足りねぇがな」

 イシカワが右手を前に突き出していった。
「腕もいくつあっても足ンねぇがねぇ」

 病室に笑いがはじけた。
 草薙は部下たちが自分の元で、過酷な命令をなかば楽しんでいる、という態度に心強さを感じて、つい口元をゆるめた。

 うしろでドアがしゅっと開いた。

 スージー・クアトロ少佐だった。
 手になにやら手土産を持っていた。
 スージーは申し訳なさそうに言った

「すみません。まっさきに駆けつけたつもりだったんですが……」

「なあに、かまわん」
 草薙はスージーの肩を叩きながら言った。

「ここにいるのは、死と背中あわせの現場へ飛び込むのに快感を覚える変態の集まりだ……」

 そう揶揄やゆしながら、草薙は上司としてでなく、ひとりの女性として忠告した。

「スージー、あなたはそこまでイカれないようになさいね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いくさびと

皆川大輔
SF
☆1分でわかる「いくさびと」のあらすじ →https://www.youtube.com/watch?v=ifRWMAjPSQo&t=4s ○イラストは和輝こころ様(@honeybanana1)に書いていただきました!ありがとうございました!       ◆□◆□◆□◆ 時は、2032年。 人のあらゆる事象は、ほぼ全て数値で管理できるようになっていた。 身長や体重、生年月日はもちろん、感情や記憶までもが、数値によって管理されている。 事象の数値化に伴って、行動履歴なども脳内に埋め込まれた機械〝シード〟によって記録されるようになり、 監視社会となったことで犯罪率も格段に低下していた。 しかし、そんな平和にも思える世界で、新しい火種が生まれだそうとしていた。 突如、全身を黒く染めた怪物が、街に出現し始めたのだ。 前触れもなく街に現れ、見境なく人を襲う存在――〝シカバネ〟。 ただ、そんな人に危害を加えるような存在を見逃すほど世界は怠けてはいない。 事件が起こるやいなや、シカバネに対抗しうる特殊な能力を持った人間を集め、警察組織に「第七感覚特務課」を新設。 人員不足ながら、全国に戦闘員を配置することに成功した。 そんな第七感覚特務課・埼玉支部に所属する桜庭大翔は、ある日、シカバネとなりかけていた姫宮明日香と遭遇する。 感情を失い、理性を失い、人ではない存在、〝シカバネ〟になりかけている少女に、少年は剣を向けた。 己の正義を執行するために。 この出会いは、偶然か運命かはわからない。 一つ確かなのは、二人が出会ったその瞬間から、未来が大きく動き出すことになったということだけだった。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

私たちの試作機は最弱です

ミュート
SF
幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた 主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。 その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、 自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。 AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。 整備士の卵であるパートナー・明宮哨。 学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。 皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。 後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、 彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。 ※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも  同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。  こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので  続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。 ※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。  一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。

【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した

まみ夜
SF
俺の名は、エイミー・ロイエンタール、六歳だ。 女の名前なのに、俺と自称しているのには、訳がある。 魔法学園入学式前日、頭をぶつけたのが原因(と思われていたが、検査で頭を打っていないのがわかり、謎のまま)で、知らない記憶が蘇った。 そこでは、俺は男子高校生で科学文明の恩恵を受けて生活していた。 前世(?)の記憶が蘇った六歳幼女が、二十一世紀初頭の科学知識(高校レベル)を魔法に応用し、産業革命直前のプロイセン王国全寮制女子魔法学園初等部で、この時代にはない『フレンチ・トースト』を流行らせたりして、無双する、のか? 題名のわりに、時代考証、当時の科学技術、常識、魔法システムなどなど、理屈くさいですが、ついてきてください。 【読んで「騙された」にならないための説明】 ・ナポレオンに勝つには、どうすればいいのかを検討した結果、「幼女が幼女のままの期間では魔法でもないと無理」だったので、魔法がある世界設定になりました ・主人公はこの世界の住人で、死んでいませんし、転生もしていません。また、チート能力もありません。むしろ、肉体、魔法能力は劣っています。あるのは、知識だけです ・魔法はありますが、万能ではないので、科学技術も(産業革命直前レベルで)発達しています。 表紙イラストは、SOZAI LABより、かえるWORKS様の「フレンチトースト」を使用させていただいております。

後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜

黄舞
SF
「お前もういらないから」  大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。  彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。 「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」 「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」  個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。 「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」  現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。  私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。  その力、思う存分見せつけてあげるわ!! VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。 つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。 嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。

ホワイト・クリスマス

空川億里
SF
 未来の東京。八鍬伊織(やくわ いおり)はサンタの格好をするバイトに従事していたのだが……。

「虚空の記憶」

るいす
SF
未来の世界では、記憶ストレージシステムが人々の生活を一変させていた。記憶のデジタル保存と再生が可能となり、教育や生活の質が飛躍的に向上した。しかし、この便利なシステムには、記憶の消失や改ざんのリスクも存在していた。ある日、システムの不具合で一部の記憶が消失し、人々の間に不安が広がる。消失した記憶の謎を追う若い女性リナが、真実を求めて冒険に身を投じることで、未来の社会に希望と変革をもたらす物語が始まる。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...