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第三章 第七節 さよならアイ
第833話 草薙部隊の覚悟
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「なんで、雁首揃えて見舞いなのかい?」
病室にあらわれた草薙をみて、イシカワが不満げに声をあげた。草薙はすでにイシカワの病室に、先客が何人もいることに気づいて鼻をならした。
そこにバットー、トグロ、サイトーたちがいた。なごんだ雰囲気からみるに、どうもすでに居座っているという程度には、長居しているようだった。
「右手は大丈夫か?」
イシカワはこれみよがしに右腕を突き上げて、指を動かしてみせた。
「IPS培養の代替品ですからね。完璧とはいきませんが……ま、とくに支障はなさそうですわ」
「クローン代用は世界憲章で禁止されているからな。機械の腕よりは馴れやすいとは聞いている」
「軍に復帰できるレベルまで戻せるかはリハビリ次第ですが…… まぁぼちぼちやりますや」
「そうか、すまなかった」
「なんで姫が謝るんです」
「無茶をさせた」
イシカワが目をひんむいて、バットーやトグロたちを見回した。
「おいおい、バットー、聞いたかい? 無茶させた、だと」
「ああ、そうだな」
「いままで無茶しかさせたことがないのに。謝られちゃあ、ケツの穴がこそばゆくなっちまうぜ」
「そうか。それでも今回、自分もふくめて、全員に無理をさせたと思う。みなご苦労だった」
「大佐、よしましょうや。だれも死ななかっただけでもめっけモンですぜ」
バットーが言うと、トグロが追随した。
「そうですね。自分はブライト元司令護衛の件もあわせて、2回くらい死にかけてますからね。今回も命を落とさずに戻ってこれてほっとしてますよ」
「トグロ中佐はまだいいですよ。ぼくなんか囮にされたンですよ」
サイトーがわざとらしく不満の声をあげた。
「サイトー、あんたの囮はまだマシだろ」
イシカワが言った。
「姫がすぐに助けに来たんだから。あっしは単独で囮だぜ。姫とは長いつきあいだが、さすがにこいつは無茶がすぎると思ったぜ」
「そ、そうですよね」
「だが、それがたまらんのだよ」
そのイシカワのことばにサイトーがぎょっとした表情を浮かべた。
「だって人間の身ひとつで、亜獣と戦ったんだぜ。いくら軍人だからと言っても、こんな体験できるヤツが何人いるっていう話だよ」
「ああ、たぶん…… そうはいねぇな」
バットーが感慨深い表情で言った。
「オレも魔法少女なんて手強いヤツ相手に、生身で戦うなんて想像したこともなかったよ。かわいい名前をつけられちゃあいるが、ありゃ立派な亜獣だぜ。今回ほど武士の血をひいてることに、感謝したことなかったぜ」
「まぁ、やりがいは、ハンパないです。それは確かです」
トグロが自分の肩をさすりながら言った。
「この部署へ移動を申請して、ほんとうによかったと思います。たとえ、肩をアンカーで射ぬかれたとしてもね」
「でもおかげでトグロ中佐は、いいひとと巡り合えたじゃないですか」
サイトーが羨ましげに言うと、バットーがうんざりした口調で続けた。
「ま、命がいくつあっても足りねぇがな」
イシカワが右手を前に突き出していった。
「腕もいくつあっても足ンねぇがねぇ」
病室に笑いがはじけた。
草薙は部下たちが自分の元で、過酷な命令をなかば楽しんでいる、という態度に心強さを感じて、つい口元をゆるめた。
うしろでドアがしゅっと開いた。
スージー・クアトロ少佐だった。
手になにやら手土産を持っていた。
スージーは申し訳なさそうに言った
「すみません。まっさきに駆けつけたつもりだったんですが……」
「なあに、かまわん」
草薙はスージーの肩を叩きながら言った。
「ここにいるのは、死と背中あわせの現場へ飛び込むのに快感を覚える変態の集まりだ……」
そう揶揄しながら、草薙は上司としてでなく、ひとりの女性として忠告した。
「スージー、あなたはそこまでイカれないようになさいね」
病室にあらわれた草薙をみて、イシカワが不満げに声をあげた。草薙はすでにイシカワの病室に、先客が何人もいることに気づいて鼻をならした。
そこにバットー、トグロ、サイトーたちがいた。なごんだ雰囲気からみるに、どうもすでに居座っているという程度には、長居しているようだった。
「右手は大丈夫か?」
イシカワはこれみよがしに右腕を突き上げて、指を動かしてみせた。
「IPS培養の代替品ですからね。完璧とはいきませんが……ま、とくに支障はなさそうですわ」
「クローン代用は世界憲章で禁止されているからな。機械の腕よりは馴れやすいとは聞いている」
「軍に復帰できるレベルまで戻せるかはリハビリ次第ですが…… まぁぼちぼちやりますや」
「そうか、すまなかった」
「なんで姫が謝るんです」
「無茶をさせた」
イシカワが目をひんむいて、バットーやトグロたちを見回した。
「おいおい、バットー、聞いたかい? 無茶させた、だと」
「ああ、そうだな」
「いままで無茶しかさせたことがないのに。謝られちゃあ、ケツの穴がこそばゆくなっちまうぜ」
「そうか。それでも今回、自分もふくめて、全員に無理をさせたと思う。みなご苦労だった」
「大佐、よしましょうや。だれも死ななかっただけでもめっけモンですぜ」
バットーが言うと、トグロが追随した。
「そうですね。自分はブライト元司令護衛の件もあわせて、2回くらい死にかけてますからね。今回も命を落とさずに戻ってこれてほっとしてますよ」
「トグロ中佐はまだいいですよ。ぼくなんか囮にされたンですよ」
サイトーがわざとらしく不満の声をあげた。
「サイトー、あんたの囮はまだマシだろ」
イシカワが言った。
「姫がすぐに助けに来たんだから。あっしは単独で囮だぜ。姫とは長いつきあいだが、さすがにこいつは無茶がすぎると思ったぜ」
「そ、そうですよね」
「だが、それがたまらんのだよ」
そのイシカワのことばにサイトーがぎょっとした表情を浮かべた。
「だって人間の身ひとつで、亜獣と戦ったんだぜ。いくら軍人だからと言っても、こんな体験できるヤツが何人いるっていう話だよ」
「ああ、たぶん…… そうはいねぇな」
バットーが感慨深い表情で言った。
「オレも魔法少女なんて手強いヤツ相手に、生身で戦うなんて想像したこともなかったよ。かわいい名前をつけられちゃあいるが、ありゃ立派な亜獣だぜ。今回ほど武士の血をひいてることに、感謝したことなかったぜ」
「まぁ、やりがいは、ハンパないです。それは確かです」
トグロが自分の肩をさすりながら言った。
「この部署へ移動を申請して、ほんとうによかったと思います。たとえ、肩をアンカーで射ぬかれたとしてもね」
「でもおかげでトグロ中佐は、いいひとと巡り合えたじゃないですか」
サイトーが羨ましげに言うと、バットーがうんざりした口調で続けた。
「ま、命がいくつあっても足りねぇがな」
イシカワが右手を前に突き出していった。
「腕もいくつあっても足ンねぇがねぇ」
病室に笑いがはじけた。
草薙は部下たちが自分の元で、過酷な命令をなかば楽しんでいる、という態度に心強さを感じて、つい口元をゆるめた。
うしろでドアがしゅっと開いた。
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スージーは申し訳なさそうに言った
「すみません。まっさきに駆けつけたつもりだったんですが……」
「なあに、かまわん」
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「ここにいるのは、死と背中あわせの現場へ飛び込むのに快感を覚える変態の集まりだ……」
そう揶揄しながら、草薙は上司としてでなく、ひとりの女性として忠告した。
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