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第三章 第七節 さよならアイ
第817話 亜獣エド、包囲作戦 4
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なんの予兆も気配もなかった。
ボコンと機体の一部が凹む音がしたと思ったら、バイクが路上にめり込んでいた。
サイトーのからだじゅうから汗がどっと噴き出した。
兵士たちがあたりをきょろきょろと見まわす。
高層ビルに囲まれた表参道は昼間でも暗い——
だからつい目に仕込まれた暗視レンズや望遠レンズを駆使することになる。だが、それらの特殊レンズを使うことで、動体視力が犠牲になる。もしエドが高速で動きまわっていたら、それを捉えるのは難しくなる。
そのとき、上空から声が降ってきた。
「アルぅぅぅ、この裏切り者ぉぉぉ!!」
エドが頭をしたにして、真上から垂直に降下してきていた。高層ビルの屋上から飛び降りてきたようだ。だが、そんな自然落下のスピードではない。
ミサイルのようなスピードで、こちらに迫ってくる。
サイトーは対魔法少女用ロケット・ランチャーを構えた。
「サイトーさん、有効射程距離は10メートルだぜ。あのスピードじゃあ……」
アルが早口で警鐘をならした。
手のひらに汗がふきだすのがわかった。
間に合いっこない。
10メートル手前で撃ったときには、すでにエドはここを通りぬけている。いや遠距離の物理攻撃ができるのなら、そこにまで迫る必要すらない。
アルに襲いかかろうとしているのは、みずからの手で復讐しようという、エドの感情ゆえのものだけかもしれないのだ。
「アルさん、逃げてください!」
照準器のスコープで、狂気の形相のエドをとらえたまま、サイトーは叫んだ。アルはすぐにバイクのスロットルをまわしたが、到底逃げ切れるとは思えなかった。
悪鬼のようなエドが迫ってくる。無駄とわかっていても試してみるしかない。
サイトーはトリガーにかけた指から汗がしたたるのを感じながら、ぐっとちからをかけた。
そのとき、エドの顔が照準のなかから消えた。
自分の追尾が外れたと、サイトーは焦った。スナイパーとしてあるまじきことだ。
あわてて照準から視線をはずすと、そこに草薙のバイクがあった。
そして、向かいのビルにからだをめり込ませたエドの姿があった。
すぐに草薙のバイクがエドに体当たりをしたのだと理解した。草薙のバイクのフロントがわずかばかり凹んでいる。
草薙率いるアルファーチームが正面から、その横からブラボーチームが、ビルの20階付近の壁にめり込んでいるエドを取り囲もうとしていた。
「どうして……?」
おもわずこころの声が、サイトーの口から漏れた。
草薙が脳内通信を通じてねぎらってきた。
『サイトー、見事な囮役、ご苦労だった」
ボコンと機体の一部が凹む音がしたと思ったら、バイクが路上にめり込んでいた。
サイトーのからだじゅうから汗がどっと噴き出した。
兵士たちがあたりをきょろきょろと見まわす。
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だからつい目に仕込まれた暗視レンズや望遠レンズを駆使することになる。だが、それらの特殊レンズを使うことで、動体視力が犠牲になる。もしエドが高速で動きまわっていたら、それを捉えるのは難しくなる。
そのとき、上空から声が降ってきた。
「アルぅぅぅ、この裏切り者ぉぉぉ!!」
エドが頭をしたにして、真上から垂直に降下してきていた。高層ビルの屋上から飛び降りてきたようだ。だが、そんな自然落下のスピードではない。
ミサイルのようなスピードで、こちらに迫ってくる。
サイトーは対魔法少女用ロケット・ランチャーを構えた。
「サイトーさん、有効射程距離は10メートルだぜ。あのスピードじゃあ……」
アルが早口で警鐘をならした。
手のひらに汗がふきだすのがわかった。
間に合いっこない。
10メートル手前で撃ったときには、すでにエドはここを通りぬけている。いや遠距離の物理攻撃ができるのなら、そこにまで迫る必要すらない。
アルに襲いかかろうとしているのは、みずからの手で復讐しようという、エドの感情ゆえのものだけかもしれないのだ。
「アルさん、逃げてください!」
照準器のスコープで、狂気の形相のエドをとらえたまま、サイトーは叫んだ。アルはすぐにバイクのスロットルをまわしたが、到底逃げ切れるとは思えなかった。
悪鬼のようなエドが迫ってくる。無駄とわかっていても試してみるしかない。
サイトーはトリガーにかけた指から汗がしたたるのを感じながら、ぐっとちからをかけた。
そのとき、エドの顔が照準のなかから消えた。
自分の追尾が外れたと、サイトーは焦った。スナイパーとしてあるまじきことだ。
あわてて照準から視線をはずすと、そこに草薙のバイクがあった。
そして、向かいのビルにからだをめり込ませたエドの姿があった。
すぐに草薙のバイクがエドに体当たりをしたのだと理解した。草薙のバイクのフロントがわずかばかり凹んでいる。
草薙率いるアルファーチームが正面から、その横からブラボーチームが、ビルの20階付近の壁にめり込んでいるエドを取り囲もうとしていた。
「どうして……?」
おもわずこころの声が、サイトーの口から漏れた。
草薙が脳内通信を通じてねぎらってきた。
『サイトー、見事な囮役、ご苦労だった」
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