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第三章 第七節 さよならアイ

第809話 ヤマト、エンアイムの登頂部に立つ

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 ヤマトは二本のサムライ・ソードを突き立てながら、エンアイムのからだをクライミングしていた。40メートル級のデミリアンとはいえ、全高が200メートルもある亜獣相手では、そうするよりほかはない。
 このエンアイムの体躯はゆるやかに回転していたので、それにあわせてマンゲツのからだもぐるぐると回転させられている。

「なによ、タケル。バーニア噴かして、ジャンプすれば、ギリギリ届くんじゃないのさぁ」
 ヤマトのアナログ的なアプローチに、アスカが異議を唱えてきた。
「たぶんね。でも一気にジャンプして、もし上にこいつの武器があったら、ぼくは無防備のまま、クリティカルな一撃をくらうかもしれない。みっともなくても、安全なほうを選びたい」
「ん、まぁ、タケルがそう言うんだったらしかたないけどさぁ」

「それにもう登頂部だよ」

 ヤマトは笑いながら、エンアイムのスカートの縁部分に手をかけると、力をふりしぼって上に這いあがった。

 エンアイムの最上部に立つと、ヤマトはひろがったスカートのなかの部分を覗き込んだ。なかからまだ生き残っていた魔法少女が数体、飛び出してきたが、ヤマトは虫をはらうような仕草で、パンとはらいのけた。
 上から見おろすエンアイムのスカート部分は、ブラックホールのようなどす黒い深淵のようにみえたが、実はそのように見せかけているだけだった。
 黒いもやのむこう側には、なにかしらの内臓部分がうごめいているのが見えた。外側部分に内臓がむきだしになっていることを、悟られまいとして、逆立ちしたような形で浮いていたり、靄のようなものを駆使していたにちがいなかった。
 ヤマトはスカート部分のふちから、すり鉢状の中心部へむかって滑り降りた。足の裏の感覚はぶよぶよとして、あまり気色のよい感触ではなかった。中心部へ降りたつと、どこからか現われた一体の魔法少女が両手をひろげて「やめて!」と叫んだ。ヤマトはそれを両手でパンと叩き潰した。その姿はすでにエンマ・アイでもなかったし、たとえ彼女の姿であったとしても、すでになんとも思わないほど、瞬時にからだが反応していた。

 中心部の真ん中に開口部らしき器官がみてとれた。
「金田日さん、みえますか!」
「ああ、どうやらそこからひとを取り込んで、魔法少女にしていたようだね」
「どうします?」
「どうします? ヤマトくん、いつものように倒せばいいだけだ」

「もうこの亜獣はなんの脅威もなくなったから、生かしてサンプルにするとかでもありかなって思って。金田日さんの就任祝い代わりにね」
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