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第三章 第七節 さよならアイ
第791話 どの表情も、ぼくが好きだったアイの表情だ
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マンゲツは一歩、一歩ぐっと足を踏みしめるようにして前に進んでいった。
目の前にエンマ・アイの壁が迫ってくる。
等間隔で並んで浮いているエンマ・アイの列にむかって、マンゲツが右手をのばした。その指先のほんのすこし先が、端のほうにいるエンマ・アイに触れそうになる。何層も奥の方にまで列をつくった、エンマアイの壁の一番手前に浮いているエンマ・アイ——
ヤマトはなつかしそうに目を細めた。
そこににこやかな笑顔をしたエンマ・アイがいた。
その隣には顎をあげて、ちょっとすねた仕草をしているアイが、その隣にはうつむいて口をすぼめたアイがいた。
顔をあからめて恥ずかしそうにもじもじしていていたり、目に涙をためてこちらに照れ笑いをしていたり、とろんとした夢見心地のような目つきをこちらにむけていたりしているアイもいる。
不機嫌そうに口をヘの字にまげていたり、眠そうな目をこすって呆けた顔をしていたり、悔しそうに下唇を噛みしめていたりして、それぞれのアイが様々な表情をしていた。
どの表情も、ぼくが好きだったアイの表情だ——
それを眺めているだけでアイと過ごした、なにげない日常が思い出されてくる。彼女との慈しみあいの日々の記憶に、いまさらながら胸がときめく。
でも、二度と得られない、人生最高の追憶——
ヤマトは一番端っこのエンマ・アイのからだに、マンゲツの指の腹でかるく触れた。
まるでカーテンの片側をめくるような仕草で、手を横にうごかした。そして——
渾身の力をこめて何人ものエンマ・アイを一気に薙ぎ払った。
真横にあるビルのガラス窓に、数体のエンマ・アイが叩きつけられた。べしゃっという音がして、そのからだが潰れる。あたりに血飛沫と肉片が飛び散る。
さきほどまでヤマトのこころを支配していた、愛おしい顔がただの肉塊になる。
『ぎゃぁぁぁぁぁ……』
いくつもエンマ・アイの悲鳴が思念となって、ヤマトの頭に飛び込んでくる。
司令部のだれかが息を飲む音が聞こえた。
ヤマトはなにも気にしなかった。
すぐさま振り抜いた右手を切り返すと、今度は手の甲側で残ったアイを薙ぎ払った。さきほどより多くのエンマ・アイをとらえる。逃げだそうとしたアイ同士が空中で激突し、からだを絡み合わせたまま、反対側のビル壁に叩きつけられた。
ドスン、ドスンという鈍い音が立て続けに響いて、壁にエンマ・アイの死体が貼り付いていく。
『タケル……助けて……』
エンマ・アイの命ごいの願いが、脳をふるわせる。
目の前にエンマ・アイの壁が迫ってくる。
等間隔で並んで浮いているエンマ・アイの列にむかって、マンゲツが右手をのばした。その指先のほんのすこし先が、端のほうにいるエンマ・アイに触れそうになる。何層も奥の方にまで列をつくった、エンマアイの壁の一番手前に浮いているエンマ・アイ——
ヤマトはなつかしそうに目を細めた。
そこににこやかな笑顔をしたエンマ・アイがいた。
その隣には顎をあげて、ちょっとすねた仕草をしているアイが、その隣にはうつむいて口をすぼめたアイがいた。
顔をあからめて恥ずかしそうにもじもじしていていたり、目に涙をためてこちらに照れ笑いをしていたり、とろんとした夢見心地のような目つきをこちらにむけていたりしているアイもいる。
不機嫌そうに口をヘの字にまげていたり、眠そうな目をこすって呆けた顔をしていたり、悔しそうに下唇を噛みしめていたりして、それぞれのアイが様々な表情をしていた。
どの表情も、ぼくが好きだったアイの表情だ——
それを眺めているだけでアイと過ごした、なにげない日常が思い出されてくる。彼女との慈しみあいの日々の記憶に、いまさらながら胸がときめく。
でも、二度と得られない、人生最高の追憶——
ヤマトは一番端っこのエンマ・アイのからだに、マンゲツの指の腹でかるく触れた。
まるでカーテンの片側をめくるような仕草で、手を横にうごかした。そして——
渾身の力をこめて何人ものエンマ・アイを一気に薙ぎ払った。
真横にあるビルのガラス窓に、数体のエンマ・アイが叩きつけられた。べしゃっという音がして、そのからだが潰れる。あたりに血飛沫と肉片が飛び散る。
さきほどまでヤマトのこころを支配していた、愛おしい顔がただの肉塊になる。
『ぎゃぁぁぁぁぁ……』
いくつもエンマ・アイの悲鳴が思念となって、ヤマトの頭に飛び込んでくる。
司令部のだれかが息を飲む音が聞こえた。
ヤマトはなにも気にしなかった。
すぐさま振り抜いた右手を切り返すと、今度は手の甲側で残ったアイを薙ぎ払った。さきほどより多くのエンマ・アイをとらえる。逃げだそうとしたアイ同士が空中で激突し、からだを絡み合わせたまま、反対側のビル壁に叩きつけられた。
ドスン、ドスンという鈍い音が立て続けに響いて、壁にエンマ・アイの死体が貼り付いていく。
『タケル……助けて……』
エンマ・アイの命ごいの願いが、脳をふるわせる。
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