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第三章 第六節 ミリオンマーダラー
第772話 アイの回想 亜獣襲来3
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「タケル、あたし、どうなるの?」
あたしは不安をぐっと飲みこんで、事務的な口調をよそおって訊いた。
「だいじょうぶだよ。いったん潮がひいてしまえば、次の波までは時間があくと思う。問題はどれくらいの猶予があるかだ」
「タケルくん。いま、シミュレーションしている」
エドから援護のことばが飛んできた。
「おそらく、いったん引いてしまえば、それほど脅威はないと思うんだが…… なにせナポリ湾の海岸線は、溶岩の蒸発で1キロメートル近く後退してしまったからね」
「一キロですか?」
「うん。おどろくに値しないさ。ポンペイが消えた西暦79年の噴火でも、400メートルほど海岸線を後退させてるからね。今回の噴火の規模をかんがえれば……」
「わかりました。とりあえず、この引き潮を乗り切ります」
「頼んだわよ。タケルくん、アイ」
リンが形式的に激励してきた。
どうせ、その激励のほとんどは、あたしたちじゃなくて、デミリアンにむけられている。
だけど、ここがこの災害の正念場なのはわかってた。
まだ生きているいくつかのモニタを、あたしは注視した。
なに——?
ひっぱられていく海の奥側のほうの位置で、レーダーがわずかに反応した。
強力な力の波にひっぱられて、なかば強制的に行き先をきめられているのに、その光はそれと逆行しているような動きをしているように見えた。
「タケル! 今、なにか反応した!」
「反応が?」
「ええ。これって、たぶん……」
「亜獣の反応——」
「亜獣の反応って、ほんとうか!。アイ!」
脊髄反射的に叫んできたのは、ブライトだった。
「ブライト、そっちで捕捉できてないの?? わからないのよ。でも近距離レーダーの信号がわずかに……」
「エド、ヴィーナスのレーダーの解析は!!!」
「ブライト司令。電波や無線波の通信がこちらに届いてないんです。解析など……」
「亜獣の反応は!!! ヴェスビオ火山のマグマ溜まりにあった亜獣の反応はどうなってる!!??」
「そ、それが、さきほどから、その亜獣の反応が消えているんです」
「いつからだ!」
「ほんの5分ほど前です」
「なぜ、報告しないっっっ!」
「ですからぁ、噴煙のせいで電波や無線波の通信がとぎれてるんです! 正確なデータの取得がとれる状況にはありません」
ブライトがかるく舌打ちした。
「では、亜獣がその引き潮のなかにいる可能性があるのだな。でもどうやって……」
「わかりません。ですが、今の状況を考えると、噴石に擬態したか、溶岩に身を隠したか……」
「まさか、そんな亜獣がいるのか!」
「いえ……。そんな亜獣の記録はありません。ですが……」
エドが口ごもった。
あたしはイラッとした。今はそんなくだらない駆け引きをしている場合じゃない!
あたしは不安をぐっと飲みこんで、事務的な口調をよそおって訊いた。
「だいじょうぶだよ。いったん潮がひいてしまえば、次の波までは時間があくと思う。問題はどれくらいの猶予があるかだ」
「タケルくん。いま、シミュレーションしている」
エドから援護のことばが飛んできた。
「おそらく、いったん引いてしまえば、それほど脅威はないと思うんだが…… なにせナポリ湾の海岸線は、溶岩の蒸発で1キロメートル近く後退してしまったからね」
「一キロですか?」
「うん。おどろくに値しないさ。ポンペイが消えた西暦79年の噴火でも、400メートルほど海岸線を後退させてるからね。今回の噴火の規模をかんがえれば……」
「わかりました。とりあえず、この引き潮を乗り切ります」
「頼んだわよ。タケルくん、アイ」
リンが形式的に激励してきた。
どうせ、その激励のほとんどは、あたしたちじゃなくて、デミリアンにむけられている。
だけど、ここがこの災害の正念場なのはわかってた。
まだ生きているいくつかのモニタを、あたしは注視した。
なに——?
ひっぱられていく海の奥側のほうの位置で、レーダーがわずかに反応した。
強力な力の波にひっぱられて、なかば強制的に行き先をきめられているのに、その光はそれと逆行しているような動きをしているように見えた。
「タケル! 今、なにか反応した!」
「反応が?」
「ええ。これって、たぶん……」
「亜獣の反応——」
「亜獣の反応って、ほんとうか!。アイ!」
脊髄反射的に叫んできたのは、ブライトだった。
「ブライト、そっちで捕捉できてないの?? わからないのよ。でも近距離レーダーの信号がわずかに……」
「エド、ヴィーナスのレーダーの解析は!!!」
「ブライト司令。電波や無線波の通信がこちらに届いてないんです。解析など……」
「亜獣の反応は!!! ヴェスビオ火山のマグマ溜まりにあった亜獣の反応はどうなってる!!??」
「そ、それが、さきほどから、その亜獣の反応が消えているんです」
「いつからだ!」
「ほんの5分ほど前です」
「なぜ、報告しないっっっ!」
「ですからぁ、噴煙のせいで電波や無線波の通信がとぎれてるんです! 正確なデータの取得がとれる状況にはありません」
ブライトがかるく舌打ちした。
「では、亜獣がその引き潮のなかにいる可能性があるのだな。でもどうやって……」
「わかりません。ですが、今の状況を考えると、噴石に擬態したか、溶岩に身を隠したか……」
「まさか、そんな亜獣がいるのか!」
「いえ……。そんな亜獣の記録はありません。ですが……」
エドが口ごもった。
あたしはイラッとした。今はそんなくだらない駆け引きをしている場合じゃない!
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