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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第766話 草薙の失態2

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「各位。エドは魔法使いだ。ひとをバラバラにする能力はないと聞いている。だが油断するな。そいつは亜獣そのもののように、亜空間ベールに隙がない。それまで諸君が戦ってきた魔法少女のように、四方八方から攻撃すれば、どれか当たる、などという運まかせの攻撃は、期待できんと思え!」

 草薙はそう注意をうながしてから、背後に耳をすました。柱の陰からアルの涙をしゃくるような、泣き声がまだ聞こえてきていた。

 基地内でも「アルとエド」は、名コンビと評判だったので、そのショックは察するにあまりあったが、草薙はなぐさめひとつ言うことができなかった。
 今は涙ひとつぶの情けが、命にかかわる局面だ。

 四方と上方を兵士に取り囲まれたエドは、あきらかに怯えていた。
 まだ自分に何が起きたのか、なぜこんな状況になっているのかが、まったくわかっていないようだった。
 それならば、受け入れがたい事実を理解する前にとどめをさしてやるべきだろう。

 草薙はサイトーに脳内回線で『やれ!』と命じた。
 四人の兵士たちは一斉に槍を突き出した。訓練どおりの寸分たがわぬタイミング。確実に串刺しになる間合い。

 だが、エドは空中に跳んだ。

 羽根がないから飛べないはずだったが、人間ばなれした大きな跳躍で、一斉攻撃を回避してのけた。ジャンプしたエドのからだが、上空で待機していたサイトーのエア・バイクの底面プレートにぶつかった。サイトーはエドの動きを見越していたように、からだを下に乗り出しマジカル・ソードを下にむけてふるった。
 が、エドはプレートのでっぱりに手をかけると、からだをくるりと回転させ、まるで軽技師のように、ふわりとサイトーのバイクの後部座席に降りたった。サイトーはからだを起こすなり、背後にむけて刀を横に薙ぎ払う。エドはその一撃をぽうん、とその場でかるくジャンプしてかわした。
 サイトーがすばやくうしろにむき直る。降りてきたエドにむかって、剣をふりかざす。
 が、その動きをおしとどめるように、エドがサイトーの肩をぐっとつかんだ。信じられないことに、それだけでサイトーの腕がとまった。

 サイトーの目が見開かれる。

 腕一本で自分の動きを封じるエドを、おどろいた表情で見あげる。エドはサイトーの肩をつかんだまま、からだを前のめりにして顔を近づけた。草薙からはエドがどんな顔をしたのかわからない。

 ただサイトーは半狂乱じみた奇声をあげて、エドの腕をふりほどこうともがいた。
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