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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第757話 灼熱のジェット噴流 火砕流発生3

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「タケル、ダメぇぇ、逃げ切れないっっっ」

「アイ、からだ全体にベールを展開するんだ」
 声が聞こえた。
 そんなことしたら、背後から飛んできた噴石に直撃を受ける。などという生ぬるい不安など、とっくになかった。

 対応をすこしでもまちがえたら、セラ・ヴィーナスは焼き尽くされる——
 あたしはタケルを信じるしかなかった。

 ぎゅっと目をとじて、からだ全体にベールをまとう。そうイメージして念じた。

 その瞬間、押し寄せてきたバケモノ級の煙の壁が、セラ・ヴィーナスを飲みこんだ。
 あたしはとっさにその場に立ち止まって踏ん張った。だけど想像したようなデミリアンの巨体があおられて、吹き飛ばされるようなおおきな風圧は感じなかった。ただ煙の巨大な塊が吹き抜けただけ、という程度ですこし拍子抜けだった。

 だけどそうじゃなかった。

 地上で人間がはじけていた。

 地上にいるひとびとはみな、熱で皮膚が風船のように膨れあがって破裂した。
 悲鳴をあげる口から飛び込んだ熱波は、瞬時にして肺をなかから焼き尽くし、水分の沸騰によって眼球は膨れあがり、水晶体があたりにはじけとんだ。
 頭が破裂したひともいた。
 脳内の液体が瞬時に沸騰したのだ。そのせいで頭蓋骨内の圧力が高まり、耐えきれなかったにちがいなかった。

 それはまさに地獄図だった。 
 すくいがあるとしたら、みなおそらく即死だったということくらいだ。
 
 だけど即死したにもかかわらず、横たわる人々は地面で、まだうごめいていた。筋繊維や腱が熱で収縮して、自分勝手に動いているのだった。

 壁面のデッドマンカウンターは、おそろしい勢いで数をカウントしていた。
 あたしはとてもそれを正視できなかった。
 さっき、高層ビルが倒壊したときには、『百』の桁のフリップだけが動いて、粗っぽく数字をカウントしていたけど、今はその『百』の桁どころか『千』の桁もほとんど動いてないように見えた。
 そして一番左端の数字は、『四』の数字を刻んでいた。

 死者四万人——

 あたしは最初、デミリアンの戦い史上、最大の大惨事になったと思い、がっくりと肩を落とした。だけどその数字がデッドマンカウンターの上限である、一番左端のフリップだったことにはたと気づいた。

 心臓がはねあがるのを感じた。

 デミリアン操縦中には、絶対にしてはならないことなのに、あたしは鼓動が早鐘のように打ちはじめるのをとめられなかった。
「アイ。落ちつけ! 火砕サージは通り抜けた。もう大丈夫だ」
 タケルが励ますように声をかけてくれた。あたしのヴァイタル・データの異常をみて、心配してくれたのだろう。
 そう、いくら99・9スリー・ナインだからと言っても、こんなに感情をみだしては危険だ。それはわかっている。
 だけど、血肉のかよう人間なら、これを制御することなんて絶対無理だ——

 あたしはデッドマンカウンターを直視した。
 そしてすぐに後悔した。


 死者40万8000人——


 もう正気でいられる範疇はんちゅうを超える数字だった。
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