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第三章 第六節 ミリオンマーダラー
第752話 ヴェスビオ火山噴火7
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四十メートルもある巨人が暗闇のなか、手と手をとりあって街中を走っている姿は、さぞや奇妙な光景だったと思う。
これが他人だったら、あたしは『キモイ』のひと言で斬って捨てたはずだ。でもそのときのあたしは、タケルが王子様のように感じられて、ちょっとだけうっとりとした。
だけど、あたしの浮かれ気分は、すぐに消え去ることになった。
タケルは数百メートル離れた低層ビル群までくると、その狭い一角に強引にセラ・ヴィーナスを押し込んできた。あたしは力づくでその場に尻餅をつかされた。さらにマンゲツはヴィーナスの隣にかがむと、もっと低い体勢をとるように、あたしの頭を手荒におしさげてきた。
そこは10階程度の低層ビルながら、いくつものビルが重なり合うよう建っている場所だった。林立しているおかげで、ビルが幾重にも重なっている。
もちろんこのビル群も、あたしが隠れてた高層ビルみたく、かなりの数の火山弾の直撃に見舞われていたけど、何枚もの壁に阻まれて、一番奥のビルにまでは届いていない。タケルはその構造を利用しようとしていた。
防御壁のような役目を果たす低層ビル群を——
堅固このうえないビルの壁。だけどそのために巨人は卑屈なくらいからだを縮こまらせなければならない。
助かった——
たかが0・25秒の痛みとはいっても、痛いのは御免だったし、あたしの愛機のセラ・ヴィーナスが傷つくのも嫌だった。リンにがみがみ言われるのがなによりも堪えられない。だからこのビルの壁はありがたかった。
すこしほっとして、余裕がうまれたせいか、聞き慣れない音が、コックピット内に響いていることに気づいた。それは一定の間隔で刻まれている、バタンバタンという重々しい音で、右の壁から聞こえていた。
それはデッドマンカウンターの音だった。
その数字が目にはいった瞬間、あたしはふっと気が遠のきそうになった。
先頭の数字は『8』を記していて、その桁は『千』の桁をしめしていた。信じられないことに、その数字は大雑把と言っていいほど、まとめてカウントされている。通常ならパタパタと一枚づつフリップがめくれるのに、『一』の桁どころか『十』の桁のフリップまでもが、ピクリとも動かないで、『百』の桁のフリップだけが、荒々しくバタンバタンと、2~3枚まとめてめくれていた。
「タケル! ひとがこんなに!」
あたしは反射的に叫んでいた。頭の片隅に「言ってもしかたないでしょ」という思いが浮かんでいたけど、言わずにおれなかった。だれかに助けを求めなかったら、そのまま泣きわめいていたかもしれない。
パニックに陥りそうなのが自分でわかっていた。
これが他人だったら、あたしは『キモイ』のひと言で斬って捨てたはずだ。でもそのときのあたしは、タケルが王子様のように感じられて、ちょっとだけうっとりとした。
だけど、あたしの浮かれ気分は、すぐに消え去ることになった。
タケルは数百メートル離れた低層ビル群までくると、その狭い一角に強引にセラ・ヴィーナスを押し込んできた。あたしは力づくでその場に尻餅をつかされた。さらにマンゲツはヴィーナスの隣にかがむと、もっと低い体勢をとるように、あたしの頭を手荒におしさげてきた。
そこは10階程度の低層ビルながら、いくつものビルが重なり合うよう建っている場所だった。林立しているおかげで、ビルが幾重にも重なっている。
もちろんこのビル群も、あたしが隠れてた高層ビルみたく、かなりの数の火山弾の直撃に見舞われていたけど、何枚もの壁に阻まれて、一番奥のビルにまでは届いていない。タケルはその構造を利用しようとしていた。
防御壁のような役目を果たす低層ビル群を——
堅固このうえないビルの壁。だけどそのために巨人は卑屈なくらいからだを縮こまらせなければならない。
助かった——
たかが0・25秒の痛みとはいっても、痛いのは御免だったし、あたしの愛機のセラ・ヴィーナスが傷つくのも嫌だった。リンにがみがみ言われるのがなによりも堪えられない。だからこのビルの壁はありがたかった。
すこしほっとして、余裕がうまれたせいか、聞き慣れない音が、コックピット内に響いていることに気づいた。それは一定の間隔で刻まれている、バタンバタンという重々しい音で、右の壁から聞こえていた。
それはデッドマンカウンターの音だった。
その数字が目にはいった瞬間、あたしはふっと気が遠のきそうになった。
先頭の数字は『8』を記していて、その桁は『千』の桁をしめしていた。信じられないことに、その数字は大雑把と言っていいほど、まとめてカウントされている。通常ならパタパタと一枚づつフリップがめくれるのに、『一』の桁どころか『十』の桁のフリップまでもが、ピクリとも動かないで、『百』の桁のフリップだけが、荒々しくバタンバタンと、2~3枚まとめてめくれていた。
「タケル! ひとがこんなに!」
あたしは反射的に叫んでいた。頭の片隅に「言ってもしかたないでしょ」という思いが浮かんでいたけど、言わずにおれなかった。だれかに助けを求めなかったら、そのまま泣きわめいていたかもしれない。
パニックに陥りそうなのが自分でわかっていた。
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