いつか日本人(ぼく)が地球を救う

第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第745話 アイの回想 ナポリの戦い８

　だがそれまで静観していたエドが割って入った。
「いや、ヤマトくん。待ってくれないか。ここまできて、なんのデータも取得できないのでは、われわれは……」
「エド、勘弁してちょうだい。データのためにデミリアンを危険にさらすわけにはいかないわ」
　エドがタケルに反旗をひるがえしたのを、リンがアシストして封じ込めた。もっともあたしたちを気づかってのことじゃなく、デミリアンの損傷を危惧してのことだけど。
「いや、すまねぇが、春日博士。オレもエドを支持してぇとこだ。もしこの亜獣がゲームチェンジャーっていうなら、このあとにも同様の傾向の亜獣が出現する可能性がたけぇ。データはあるにこしたこたぁねぇ」
　アルの参戦をリンが一蹴した。

「アル、この子たちがやられちゃったら、武器も兵器もないでしょう」

　もちろん『この子』はあたしやタケルのことじゃない——
「了解だ」
　ブライトがようやく決断したらしかった。
「リンの言うように、デミリアン二体は今すぐ撤収する。すぐに上空からの牽引ビームで引き揚げさせろ」
「ええ、よろしくお願いします」
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ、タケル」
　あたしはタケルとブライトがあうんの呼吸で、退却しようとしているのが気に入らなかった。
「ここまできて、なにもせずに帰ンの？　もー、信じられンない」
「アイ、ここはブライト司令の判断に従うよ。もしかしたらぼくらは亜獣じゃなくて、自然災害と戦うことになるんだから」
「自然災害がなによぉ」
「デミリアンは自然災害に耐えられる仕様になってない」
　
「はん、人類はとっくに天気やなんかをコントロールできるようになってンでしょ。自然災害なんておきやしないわよ」
「それはちがうよ。台風とか大寒波や熱波なんかはなくなったけど、局地的な雨とかまではできてない。ほら、前に渋谷で降られたじゃないか」
「あぁ、あんときの……」

　最低でサイコーの日——

「それに地震や噴火のような災害は、予測なんかは完璧にできても、ふせぐことはできずにいる」
　タケルにそこまで言われて、そろそろ潮時だと感じた。
「もー、わかったわよ。はやく牽引ビームでもなんでもちょうだい。帰るわ……」


　そのとき、地面がぐらっと揺れるのを感じた。