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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第731話 まさかきみが魔法少女の手先だったとは

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「ふ、アル。きみもだてに長くここにはいないってことだね。ぼくは今回はじめて依頼したけどね。まさかきみが魔法少女の手先だったとは……」

 アルは手を大きくふって、あわてて否定した。

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ。おまえさん、ちょいと結論を急ぎすぎだぜ。カメラ映像をアーカイブ処理したくらいで」
「処分したくらいで? もし勝手にそうしたとしたら、まちがいなく犯罪だし、完全な内規違反でもある」
「おいおい、今度は脅しかい。エド、そういうのはなしにしようぜ。オレとおまえの仲だろ。もう10年以上も組んでるんだぜ。そりゃいつも良好の関係だっったっていうわけじゃぬえが……」

「黙れ!」

 エドはアルの弁明じみた戯言たわごとを一喝した。
「アル。そんな仲だ、というなら、なぜぼくに隠しごとをしている」
 アルはため息をついた。
「なあ、エド、オレたちゃあ互いに部署をこえた友情をはぐくんできた。でも職務上の守秘義務や先権事項、こいつぁ別モンさぁ。職務だからな。全部が全部オープンにできるわけじゃない。エド、おまえさんもそうだろう。とくにオレは素材の調達に、それなりに危なっかしいマネをしねぇときている。アンダーグラウンドのマーケットでしか、でまわってねぇ『ブツ』もあるんでな」

「ああ、そんなことわかってるさ。ボクはキミの前の二代目とも、すこしだけ仕事をした時期があるからね」
「わかってんだったら、そうかりかりしなさんな。そういうわけなんだからサ。あの映像を処理したのも、黙っていたのも、オレがそういう役目を背負わされるせいでね」
 アルのことばにエドは黙り込んだ。
 なんとなく合点がいったのか、エドは小刻みに頭を縦にふっている。まるで自分に言い聞かせているようだ。

 アルはこれでこの話題は終わったと思い、仕事に戻ることにした。
 そろそろ憲兵隊から派遣された、移送ロボットが到着するころだ——

「ちがう!」

 エドが腹の奥底から、否定のことばを叫んだ。なにかをふりはらうように、つよく頭をよこにふっている。
「ちがうぞ、アル。騙されるもんか、ああ、騙されやしない!。あの映像を処分することはきみの、きみひとりの権限でできるもんじゃない。もうひとり同等か、それ以上の権限をもつ人物のIDが必要だったはずだ」

 アルはすこし腹がたった。だがそれを表情にだすことはしなかった。
 それは彼のいつものスタイルとはちがうからだ。

 アルは頭をかきながら、ばつのわるそうな態度でごまかした。
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