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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第722話 エドが護衛部隊とはぐれて孤立している

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 草薙素子は瞬時にどうすべきかを思案した。

 エドが護衛部隊とはぐれて孤立している——

 しかも信じがたいことに、自分たちが倒したはずの魔法少女が、復活していたという証言も寄せられていた。
 エドはしんがりをつとめていた兵士と一緒にいる、というのがせめてもの救いだったが、その兵士と視覚や思考の共有ができないどころか、まったくコンタクトができずにいるというのが気がかりだった。彼のヴァイタル・データは正常で、生存していることを証明してくれていたが、それが本当の状態であるのかはなはだ疑わしかった。

「サイトー、これをどうみる?」

 サイトーはふいに意見を求められたにもかかわらず落ちつきはらっていた。
「はっ。私は個人的見解ではありますが、その兵士はすでに手遅れではないかと思います」
「魔法少女になったと?」
「いえ、あの頭だけになった魔法少女には、ひとを魔法少女にする能力はないはずです。ですから兵士のからだが乗っ取られたと考えるべきでしょう」
「そう考えるのが妥当かもしれんな。ところで近くにいるはずのエド博士の様子は?」
「エド博士は兵士から離れて、今、館内を逃げまわっています」

「なるほど……。たしかにその兵士は手遅れだな。あのエド博士がこの状況で、護衛の兵士から離れて単独行動をおこすというのはよっぽどのことだからな」

「どうされますか?」

「サイトー、おまえは残りの兵士を連れて、魔法少女を駆逐しにいってくれ、残った兵士が魔法少女だと認められたら、あの無粋な魔法少女対策用銃をぶっぱなしてかまわん。警護対象もいないしな」

「草薙大佐。おことばですが、あの銃は魔法少女の心臓を破壊することで、完全に駆逐できるのですよ。刀で斬るより洗練されていて、安全かと」
「まぁ、そう、安全ではあるな。頭とからだを切り離さなければ、頭だけが襲いかかることもなかったかもしれんしな」
「あ、いえ。そういう意味で申しあげたのでは……」

 草薙は恐縮しているサイトーを一瞥すると、「サイトー、こちらにエド博士の現在地のマップを送れ」とだけ言って、エア・バイクにまたがった。

「あ、はい。ですが草薙大佐おひとりで、いかれるのですか?」
「もちろんだ。ひとひとりを本部内で探すだけだ。ぞろぞろ行ってもしかたあるまい」
「ですが、もし魔法少女に遭遇したら……」
 草薙はバイクの脇に装着されていた銃をホルダーから引き抜いて掲げた。

「心配するな。今度はこの無粋な銃で片づける」


 草薙は司令部内の通路をエア・バイクで通り抜けながら、エド博士の位置をモニタで確認した。

 エドの足取りは迷いがないことがわかった。慎重をきしてその歩みは遅かったが、まちがいなくアルのいる武器庫エリアのほうへむかっていた。脳内通信でサイトーに連絡をとる。

「サイトー、そちらはどうだ」
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