いつか日本人(ぼく)が地球を救う

第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第721話 草薙、リン、ブライトからの激励

「あのとき……、アイの脳が奪われたことを知ったとき、ぼくは不覚にも取り乱した。そして彼女の脳を利用した攻撃が予見されたとき、ぼくはみずから戦列をはなれる決断をした。そういう態度や判断がリンさんやほかの人に影響してしまった気がする。もしかしたら自分勝手に自分の弱点がそこにあると決めつけてしまっていたのかもしれない」

　ピーッというアラート音が聞こえて、草薙が声をかけてきた。
「タケルくん、ごめんなさい。こっちの事態が急変したわ。わたしはそちらの任務にあたります」
「あぁ、草薙大佐、ありがとうございました」

　草薙はこれ以上ないほど、真摯な目をむけて言った。
「タケルくん。この基地で、いえ、あなたの人生で、わたしほどあなたと行動をともにした人物はいません。そのわたしが断言します」

「ヤマト・タケルは絶対にエンマ・アイに取り込まれない。あなたがこころの底から、彼女を大事にしていたからこそつけ込まれない。しっかりと胸に刻んでおきなさい」
　そう言いおえるなり、カメラが倉庫内を映す別視点のものに切り替わった。そこにはあわただしく、バイクを発進させる草薙の姿が映っていた。

　画面から草薙とバイクが消えると、春日リンがゆっくりと口を開いた。
「草薙大佐の言うとおりね。タケルくん、あなたはあんなにも愛おしいひとの死を乗りこえられたの。だからもうどんなことにも、まどわされることはない。あとはあなた自身を信じ抜けばいいわ」
　ヤマトは無言でうなずいた。ぐっとくちびるを噛みしめ、ヤマトは降下の準備に取りかかった。

「ヤマト……」
　ふいにブライトが呟くように言った。ヤマトがメインモニタをブライトのものに切り替える。ブライトはまた顔を伏せて、こちらを見ようとしなかった。

「カミナ・アヤトのことはほんとうにすまなかった。今さら謝ったところでどうなるものではない。だが、我々はおまえをうしなうわけにはいかない」
　ブライトがおおきく息をすった。
「わたしはおまえが嫌いだ。それはおまえが生意気で自分勝手で、わたしの言うことをきかなかったからだ。だが、わたしはどんなにおまえと対立しても、怒りで暴力をふるっても、おまえの力を疑ったことは一度もない。ヤマトタケルならどんなピンチでもなんとかしてくれると、信じていた」
　ブライトがゆっくりと顔をあげた。モニタ越しに射るような目をヤマトにむけてくる。
「任を放りだしたわたしが言うべきことではないことはわかっている。だが、あえて、前司令官として言わせてくれ」

「ヤマト・タケル、地球をたのむ！」