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第三章 第六節 ミリオンマーダラー

第717話 自分の興味を地球と天秤にかけるわけにもいかない

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「あ、あたしだって、そこまでの自信は持てないわ。でも、それってしかたないでしょう。あのおんなは、タケルと姉弟きょうだいのように育ったンだから。すごした年月がちがいすぎるわよ」

「そう。そうなんです。だからよけいむずかしかったんだと、わたしは思います。十年近く姉弟きょうだいとして育ったんですよ。アスカさんならわかるでしょう?」
 クララが兄リョウマのことをさりげなく匂わせせてきた。直接的に名前をだしては、つらい思いを蒸し返すのではないかという配慮なのだろう。その気づかいがアスカには邪魔だった。

「うん、ま、まぁ。たしかにね……。あたしはリョウマのこと大好きだったけど、それは恋愛感情とかじゃなかった。それに兄のリョウマもあたしにはそんな感情なんて、これっぽっちももってなかった……。だってあんたに夢中だったくらいだからね」
 わずかばかりの当てこすりもふくめて言ったが、クララはすこし微笑んだだけだった。
姉弟きょうだいとして育ったというのは、アイさんにとっては相当なハンデだったはず。でもそれを乗り越えた。わたしはタケルさんとアイさんの思い出を知りたくない、というのとおなじくらい、もっと知りたい、とも思ってるの」

「どうしたらタケルさんのこころを射止められるか、知ることができるかもしれないから……」

「じゃあ、アンタ、エンマ・アイの脳を破壊しないつもり?」
「そんなわけないじゃないですか」
 そう啖呵をきってから、亜獣に剣をふるう。
「こいつらが片づいたら、そっこーであの脳を始末しますわ」
「言ってることが矛盾しているように思えるけど?」
「そうかもしれません。でも、もしこれ以上、アイさんの想いを知ってしまったら、かならずこころが折れて、躊躇してしまう自分がいるってわかってますから」
 アスカはクララのかざらない本音をきいたような気がした。

「そうね。たぶん、あたしもそう。さっきのでも気が狂いそうだったンだから、それどころじゃなくなるかもしれない」
「おんなとしての興味を、地球の運命と天秤にかけるわけにもいかないですしね」

「りょーかい。あたしのほうが先にあの脳をぶっ壊してあげるわ。それであの記憶をねじ込んでくる現象がとまるかはわからないけど、可能性を潰してやる」
「アスカさん、お願いします」


 アスカはふたたび一点を凝視した。
 それからセラ・ヴィーナスの腕を思いっきり伸ばして、ビルの上層部のでっぱりに指をかけからだをひきあげた。


 待ってなさい。エンマ・アイ。
 すぐにあんたを開放してあげる——。
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