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第三章 第五節 エンマアイの記憶
第683話 舎利弗小人(とどろきしょうと)の悲痛
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これは私への天罰だ——。
舎利弗小人は自分自身をそういましめた。
のこのことこの最前線へ、デミリアンのいるこの場所へ戻ってきた私に、天国のカミナ・アヤトが罰を与えようとしているのだ。
あのつらい思い出を、もう一度体験させることで……。
エンマ・アイとの最後の会話は責任感に満ちた別れのことばと、あとは頼むという明確なメッセージに満ちていた。
それは自分がかわした最後の会話とちがっていた。
自分との最後の会話はたわいもない日常の会話だった。まるですこしゲームでもしてくるから、食事でも用意して待っててくれ、と言わんばかりの薄っぺらいものだった。自分に心配をかけまい、悲しませたくない、という一心で、虚勢をはってみせたのかもしれない。
だからあれが最後の会話になるなどと思っていなかった。
アヤトが死んだとき、自分は体中の血や体液がすべて涙となってでていくのではないかと思うほど涙にむせんでいた。
立っていられるはずもなかったし、ましてやことばなどはすることはなかった。
とめどなく喉から発せられるのはただの嗚咽で、まるで動物の咆哮のように単純に本能的なものだった。
これでパイロットだった彼氏をうしなうのは二回目だった。
二人目だからといって免疫ができるわけでも、ましてや感覚が麻痺などするわけがない。むしろその感情はつよく、つよく増幅されるのだ。
そうにきまっている。
なによりあんな死に方をしたのでは——。
------------------------------------------------------------
「来るな、来ちゃダメだ」
回収されてきたセラ・マーズのコックピットへ昇る『昇降台』に駆け寄ろうとしたとき、エドが手を前に突き出して、大声で叫んできた。私はその剣幕に思わず足をとめてしまったが、その隙に昇降台は数人のクルーを乗せて上へとあがっていった。
置いてけぼりをくらった私は、20メートル上のコックピットまで彼らが昇っていくのを、ただぼーっとして見あげるはめになった。
カッとした怒りが頭に駆けのぼる。
「なぜです!」
私は脳内通信の手順などすっ飛ばして、大声で叫んだ。
「なぜ、私はダメなんです。私はデミリアン責任者の副長ですよ。私にも権利はあるはずです!」
だが高見から見おろしてきたエドは、その主張をはねつけた。
「すまない。アルの指示だ」
私はすばやくアルの居場所を探した。
怒りのあまり目頭が熱くなっている。だがすぐに開いているコックピットのなかに、先乗りしていたアルに気づいた。
「アルっ!。あなた、どういうことなの?。なんの権限があって……」
が、アルは網膜デバイスに、自分の映像を送り込んできた。目の前にアルの顔がアップになって広がる。
「すまねぇな。しょうとさん。オレもそうしてあげたいが、今は無理なのさ」
「ど、どうして……」
「ここにゃあ、亜獣の溶解液が付着している。まずその安全性を確認しなきゃならねぇ」
「嘘はやめて!。すでに安全性は担保されているはずよ」
「そりゃ、オレにゃわからねぇ。エドがきめるから……」
「アル!、だったら、なぜろくな防護服も身につけないでそこにいるの!」
アルが虚をつかれたのがわかった。あわててことばをにごした。
「あ、いや、オレはただ……」
「アヤトは、カミナ・アヤトは私の恋人なのよ。会わせて!」
「いや、それはできねぇ」
舎利弗小人は自分自身をそういましめた。
のこのことこの最前線へ、デミリアンのいるこの場所へ戻ってきた私に、天国のカミナ・アヤトが罰を与えようとしているのだ。
あのつらい思い出を、もう一度体験させることで……。
エンマ・アイとの最後の会話は責任感に満ちた別れのことばと、あとは頼むという明確なメッセージに満ちていた。
それは自分がかわした最後の会話とちがっていた。
自分との最後の会話はたわいもない日常の会話だった。まるですこしゲームでもしてくるから、食事でも用意して待っててくれ、と言わんばかりの薄っぺらいものだった。自分に心配をかけまい、悲しませたくない、という一心で、虚勢をはってみせたのかもしれない。
だからあれが最後の会話になるなどと思っていなかった。
アヤトが死んだとき、自分は体中の血や体液がすべて涙となってでていくのではないかと思うほど涙にむせんでいた。
立っていられるはずもなかったし、ましてやことばなどはすることはなかった。
とめどなく喉から発せられるのはただの嗚咽で、まるで動物の咆哮のように単純に本能的なものだった。
これでパイロットだった彼氏をうしなうのは二回目だった。
二人目だからといって免疫ができるわけでも、ましてや感覚が麻痺などするわけがない。むしろその感情はつよく、つよく増幅されるのだ。
そうにきまっている。
なによりあんな死に方をしたのでは——。
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「来るな、来ちゃダメだ」
回収されてきたセラ・マーズのコックピットへ昇る『昇降台』に駆け寄ろうとしたとき、エドが手を前に突き出して、大声で叫んできた。私はその剣幕に思わず足をとめてしまったが、その隙に昇降台は数人のクルーを乗せて上へとあがっていった。
置いてけぼりをくらった私は、20メートル上のコックピットまで彼らが昇っていくのを、ただぼーっとして見あげるはめになった。
カッとした怒りが頭に駆けのぼる。
「なぜです!」
私は脳内通信の手順などすっ飛ばして、大声で叫んだ。
「なぜ、私はダメなんです。私はデミリアン責任者の副長ですよ。私にも権利はあるはずです!」
だが高見から見おろしてきたエドは、その主張をはねつけた。
「すまない。アルの指示だ」
私はすばやくアルの居場所を探した。
怒りのあまり目頭が熱くなっている。だがすぐに開いているコックピットのなかに、先乗りしていたアルに気づいた。
「アルっ!。あなた、どういうことなの?。なんの権限があって……」
が、アルは網膜デバイスに、自分の映像を送り込んできた。目の前にアルの顔がアップになって広がる。
「すまねぇな。しょうとさん。オレもそうしてあげたいが、今は無理なのさ」
「ど、どうして……」
「ここにゃあ、亜獣の溶解液が付着している。まずその安全性を確認しなきゃならねぇ」
「嘘はやめて!。すでに安全性は担保されているはずよ」
「そりゃ、オレにゃわからねぇ。エドがきめるから……」
「アル!、だったら、なぜろくな防護服も身につけないでそこにいるの!」
アルが虚をつかれたのがわかった。あわててことばをにごした。
「あ、いや、オレはただ……」
「アヤトは、カミナ・アヤトは私の恋人なのよ。会わせて!」
「いや、それはできねぇ」
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2020.03.21_掲載
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