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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第676話 ぼくはマンゲツに守ってもらう必要がある

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「あ、えぇ。わたしの追跡調査ではその可能性が高いと。あのベニスの路地裏で撮影された映像。そこで魔法少女とあのキーヘーらしき小動物と会話したジョルノという男性こそが『契約者』でした。生体チップによる彼の行動範囲の履歴をトレースしたところ、彼のたちより先での魔法少女発生率が異常に高かったのです」
 エドがなにかをみながら説明した。

「私はその男の確保をイタリア軍に依頼した」
 ウルスラはそう言ってから、すこし顔を歪めた。
「驚いたことにそのジョルノという男は死ぬ間際まで、自分が接触したひとびとを魔法少女に変えていることを認めなかった。いや、ほんとうに気づかなかったようだ。だが、ヤツを射殺するまでに、20人近い警官が魔法少女にされたそうだ」
 ヤマトはミサトのほうへ目をむけて、ウルスラのあとを続けた。
「デミリアンがあるこの基地へは『魔法少女』は近づくことさえできないはずなのに、この基地内に現れたということは、ただの人間に擬態できる『契約者』が基地内にいて、基地内で魔法少女をつくり出している、という結論が導きだされるんです」
 
「だからその人物を見つけ出すまで、ぼくはマンゲツに守ってもらう必要がある」

『だったら、だったら、はやくその『契約者』を探し出して!!』
 ミサトがエドを睨みつけて、ヒステリックに言った。自分が聞かされていない重要な情報に、いくばかりかプライドが傷つけられたのかもしれない。
「あ、いや、でも……」
『このままじゃあ、危険なのはわたしたちも一緒でしょうがぁ。からだをバラバラにされるか、からだをバラバラにする化物に変わる……』
 そこにいるクルーたちは、一瞬にして自分たちがまだ安全ではないこと思い出させられたようだった。みんなの顔が不安で曇りはじめる。

「今作戦を決行中です!」
 草薙がミサトのことばを封じるかのように、大声で一喝した。クルーを不安に陥れるようなネガティブな感情を、激情にまかせて吐き出させやしない、という気迫に満ちていた。
「もうすこしお待ちください。もうすぐ『契約者』をいぶりだせますので」
 ミサトはそれ以上なにも言わなかった。
 司令室内に緊張感がはりつめはじめる。

 が、そのとき、副司令のヤシナ・ミライが叫んだ。

「イオージャ。出現!!!。名古屋です!」

「そんなバカな」とエドが叫び、金田日が顔色をうしなった。
「どういうことなのぉぉぉぉ、次から、次へとぉぉぉぉぉ」
 ミサトがまた感情を爆発させた。

「おそろしいわね」
 春日リンが感嘆のような声をあげた。敵ながらあっぱれ、と言わんばかりに聞こえる。
「わたしたちは、なにひとつ片づけられてないうえに、戦力を分散させられたわ。そして……」

 それはヤマトも同感だった。あまりにもこちらの手の内を読んで、小ずる賢い攻撃を矢継ぎ早に仕掛けてくる。
 当然だ。
 エンマ・アイの記憶をフル活用しているのだから。
「実際はマンゲツのなかに追い込まれた、というわけか……」


 春日リンの分析の続きが耳に飛び込んできた。
「そして……、ヤマト・タケルを引き摺りだした」

 その瞬間、ヤマトは意を決して宣言した。
 

「マンゲツ。出撃します!!」
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