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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第651話 亜獣の腕だろうが、指だろうがやっつけて

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「まだ斬りたりねぇが、けっこうやっつけたぜ。ちったぁ感謝しろや」

「は、まぁそれはそうね。でもまだ残ってるわよ」
 アスカが天井付近を舞ってるいる魔法少女をズームしながら言った。
「すまねぇ。マジカルソードのカートリッジもそろそろ限界でな」
 バットーが残念そうに言うと、モニタ画面が切り替わりスージーの顔が映しだされた。
「アスカさん、ユウキさん。途中で現場を離れるのは心残りですが、わたしたちはここまでです。ここからはお二人に託します」
「託すぅ?。戦っていいの?」
「ええ。アスカ、ユウキ。亜獣の腕だろうが、指だろうが、やれるところから、片づけてちょうだい」
「ふん、腕とか指ねぇ」
 アスカがリンの激励に不満げに鼻をならした。
「ちょっと張り合いがないけど、やれっていうなら……」
 アスカはいまさらになって渋ってみせたが、ユウキは亜獣エンアイムの出現を前向きにとらえていた。
「アスカくん。まずはあの片腕をひっぱって、本体側をこっちに引きずり落とそうじゃないか」
「ユウキぃ。引きずり落とすぅ?。相手は200メートル級なのよ。うまく腕をひっぱっても、肩がちらりと見えるくらいなもんでしょ。どうやっても致命傷なんか負わせられやしない」

「ちょっと待ってもらえないか」

 アスカが言った『致命傷』ということばに、なにかがひっかかった。
「なにか重要なことを思い出しそうだよ」
「なに、それ?」
「先ほどあの右腕におそわれた時、なにかを見た気がしたんだ。そのときわたしは『致命傷を与えられる』って思ったんだがね。だがそれがなんだったか思い出せない」
 ユウキは自分が攻撃を受けた時の映像を、目の前の空間に投影された数面のモニタに一度に呼びだした。いくつもの角度で撮影された映像。それをスローモーションで再生した。

 天井の一部が爆発して、なにかがなかから飛び出してくる。
 空中に飛び出してしまったユウキがそれを避けようと、『万布』を盾に変化させようとする。
 セラ・マーズにむけて一気に襲いかかる無数の触手が、すごい勢いで硬い針に変化していく。『万布』も相当のスピードで面積をひろげつつ硬化していく。
 真上からの攻撃を守るのに徹した『万布』の盾。それの隙間から攻撃を加えようとして、硬い針の触手がおおきく外側に広がる——。

 そこでユウキは映像をとめた。無数の針の触手が生えている根元部分を注視する。暗くてわかりにくい。輝度をあげてみる。
 そこにわずかに隙間があった。根っこの中央部分に触手が生えていない場所が見える。そしてそこに自分が一瞬かいま見たものが、確かにあった。

「アスカくん。これだよ」

 そのなにもないわずかな部分をユウキは拡大してみせた。

 それは脳だった——。

 おそらく右半分の脳がそこに埋まっているような状態で存在していた。

「でかしたわ。ユウキぃぃぃ」
 アスカの声はすごみを帯びていた。

 モニタ越しにアスカに目をやるなり息を飲んだ。
 そこに目をぎらつかせて、顔をいびつにゆがめたアスカの顔があった。 

「さぁ、タケルの元カノにご挨拶しにいこうじゃないの」
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