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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第639話 ユウキが己の最善を尽くしたことはわかった

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「1」
 アスカがカウントを口にしたとたん、魔法少女が分散するように大きく外へ広がりはじめた。密集がほぐれはじめたのが腹立たしかったが、ここまできて攻撃をとめられない。
「2」
 が、魔法少女の布陣は外に広がったのではなく、おおきな輪っかを描くように広がっているのに気づいた。魔法少女がおおきな輪になって、くるくる舞っていたのだ。
「のぉ……」
 セラ・ヴィーナスのからだに反動をつけて、いままさに飛び出そうとした瞬間、突然天井がドーンという轟音とともに破壊され、魔法少女が形づくった輪のなかにむけて、なにか針状のものが無数に飛び出してきた。

「待って!、ユウキ!」

 アスカはすぐさまそう叫んで、セラ・ヴィーナスを制動した。
 だが遅かった。
 ユウキは「3」のカウントを予測して、すでに中空に飛びだしていた。
 ユウキのセラ・マーズの体躯が空中に踊る。
 が、まさにその場所めがけて、無数の黒い針が天井から下方へ突き出していった。その瞬間、ユウキは魔法少女を叩き落とすために振りあげていたラケット状の『万布』を、盾に変化させようとしていた。
 ユウキが己の最善を尽くしたことはわかった。
 だが無情にも盾への硬化の途中で、針はセラ・マーズのからだに突き刺さった。針という針がからだを貫く。そう見えた。
 だが『万布』の盾は頭から腹までの主要な部位をカバーするのに、ぎりぎり間に合っていた。ただ、カバーしきれなかった肩や腕、下半身は、その攻撃をもろに受けていた。

「うわぁぁぁぁ!」
 ユウキの苦悶の叫びがモニタ越しに聞こえ、セラ・マーズが動きを停止した。針に突き刺された腕や脚が脱力する。と同時に機体が自重で下に引っぱられ、マーズのからだから針が抜けてゆく。
 貫かれた針が抜けた場所から、青い体液が吹き出すと、そのままセラ・マーズのからだは支えをうしない、落下しようとしていた。
「ユウキぃぃぃ!」
 ユウキに意識を保たせようと、アスカは大声で叫び、先ほど上にむかって飛び出そうとした姿勢のまま、ぐっと脚に力をこめた。
 セラ・マーズのからだが針から抜け落ち、空中に放り出されるやいなや、アスカは力をこめて蹴り出し、下方にむかって飛び出した。
 力なく落ちて行くセラ・マーズに、アスカは体当たりをするように掴みかかった。セラ・ヴィーナスはセラ・マーズのからだをしっかりと抱きかかえると、飛び出したときの勢いそのままに、反対側の高層ビルの横っ腹に突っ込んだ。
 ど派手な土煙をあげて、ユウキとアスカの機体がそのビルにめり込んだ。とたんにビルの表層のいたるところが崩落しはじめ、ふたつの巨体は下へと滑り落ちていきはじめた。アスカはセラ・マーズの巨体を片腕で抱え込んだまま、もう一方の手でビルのでっぱりを探る。すこしでも落下の勢いをとめようと、指先に力をこめる。

 だが、落下の勢いはそのチャレンジを許さない——。
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