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第三章 第五節 エンマアイの記憶

第637話 アスカは自分たちが試されていると感じた

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「カオリ!、勝手をいわないで!!」

 リンがアスカを昔の呼び名で叱りつけた。あまり見ることのないリンの鬼気迫まる表情に、アスカは虚をつかれた。
「今回はわたしたちも命がけなのよ。魔法少女が司令部に入ってくるようなことがあれば、わたしたちもばらばらにされる可能性があるの。椅子なんかに腰かけて、冷静に指示を出してなんかいられない。しかも魔法少女掃討の経験のある熟練者が、ここにはいない」
 リンは顔に悔しさと恐怖をにじませながら叫んだ。
「わたしたち、完全に亜獣にだし抜かれたの!」
 リンは叫んだことを後悔するように、右手で顔を覆って、絞り出すように続けた。
「基地内の魔法少女はたった三体かもしれない。でもこれは、以前現れたレイの母親の幻影とはちがう。与えられるのは精神的打撃じゃなくて、不可避の『死』なの。だれもが怖くて浮足だってる。あなたたちをサポートするどころじゃなくてね」

 アスカはいまこそ自分たちが試されている、と感じた。

 だれの指示を仰ぐこともなく、独自に判断して行動するべき局面を迎えているのだ。
「わかったわ、メイ。あなたたちはそちらで自分たちのベストを尽くしてちょうだい。でもタケルを死なせても、メイたちが死んでも、あたしは許さないからね」
 リンは決意に満ちた目をこちらへ向けてきた。アスカは口元をゆるめると、取るに足らないことに言及するような口調で請け負ってみせた。
「あたしたちはあたしたちで、こっちで勝手やらせてもらうわ」
 アスカは自信満々にみえるような笑みを無理やりつくってから言った。

「だからこっちには一切かまわなくていいわよ」

 リンとの通信を切ったあとも、アスカはリンの映っているモニタから目が離せずにいた
「アスカくん、どうするつもりかね?」
 それまで口を差し挟まずに静観してくれていたユウキが、すこし遠慮がちに訊いていた。
「どうもこうもない。ここで魔法少女のお相手をするしかないでしょうがぁ。こっちはハズレくじ引いたんだから」
「まぁ、そうだろうね。こんなとこまで登ってきて、いまさらどうするもこうするもない」
 ユウキからなかば自嘲気味に言ってこられて、アスカは自分が現在置かれている状況をあらためて確認した。

 アスカのセラ・ヴィーナスは、天井までそびえ立つ柱状のビルをよじ登り、魔法少女たちが集結している場所の近くまで到達していた。そして自分とは広場をはさんで対角線上のビルに、ユウキのセラ・サターンがいた。
 ユウキはすでに天井に頭がつく位置にいて、ビルの影に隠れてスタンバイしている。アスカは10メートルほど下の位置にいる。

 両方のビルから飛びかかって挟撃しようという作戦だった。
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