上 下
624 / 1,035
第三章 第四節 エンマ・アイ

第623話 バットーのおそるべき太刀筋

しおりを挟む
 ユウキはバットーが映し出された映像を見た。
 バットーはエア・バイクに乗ったまま単身で、空中の魔法少女の群れに飛び込んでいた。彼はバイクにはまたがっていたが、ステップに足を踏ん張ったまま、腕を真横に突き出してマジカル・ソードを振り回していた。
「ひとりだけで!」
 バットーは魔法少女に狙いをさだめると呪文を呟かせないように、最初の太刀でまず喉を切り裂いた。そしてすれ違いざまに魔法少女の羽根を、根元から切り捨てた。その動きはあまりに流麗で、まるでバットーがバイクと一体化しているかのようにすら感じられる。

 なんという精神力だ——。

 生体チップを埋込んだ人々が、思念によるAI操作をおこなうことができるのは知っていた。エア・バイクの操縦ですら、それほど難しいことではないと言う話だった。だがこの自動運転は人間がおこなえる運転の範囲を、おおきく超えるものではない。
 だが、今、バットーがおこなっているのは、空中でのアクロバット運転にちかい。
 それだけでもかなりの離れ業なのにもかかわらず、バットーは運転をしながら刀を振り回している。それは想像するまでもなく困難なことだった。雑念が浮かべば、いや敵に気を配っただけでも、操作が乱れるのだ。
 さらにおどろくべきはその太刀筋——。
 バイクの動きとあいまって、まるで剣舞か、入念にふりつけられた殺陣たてでも見せつけられているようだった。空中でバットーの刃が閃くと、確実に二振りで魔法少女は墜落していった。いけると判断したときは、通り抜けざまに羽根だけを叩き落とし、一撃で落としていくことさえある。
 5メートル以内に近づけば『分解光線』にさらされる可能性を持つ魔法少女相手に、あまりに大胆な攻撃だったが、まったく危なげなかった。
 またそれは一番の隙をつくるはずの、デミリアンの体液の封入された『マガジン(弾倉)』の取り換えの時ですら変わらなかった。
 6回制限の最後のひと振りのとき、魔法少女の羽根を上から下にむけて振り抜く寸前には柄頭つかがしらから、不要になった『マガジン(弾倉)』が飛び出していた。刀を振り降ろしたときには、すでに空になったマガジン室が上をむいている。バットーはそのマガジン室に、次のマガジンを上から叩き込むようにして装填すると、返す刀でもう次の魔法少女に狙いをさだめていた。
 以前に草薙がデモンストレーションでみせた、マガジンの交換の所作も見とれるほどだったが、バットーのそれはもっと実務的で無駄がなかった。

「まさか、これほどとは……」
しおりを挟む

処理中です...