上 下
613 / 1,035
第三章 第四節 エンマ・アイ

第612話 あの天井にたむろしている連中を排除するわ

しおりを挟む
「本部!。あの天井にたむろしている連中を排除するわ」
 
 セラ・ヴィーナスは狭い屋上を蹴りあげると、積層ビルの中腹に飛びついた。一瞬、全体重がのしかかった過重でビルがたわんだ。
 ボキリと折れてしまいそうなほどビルがしなる。
 だが、アスカはそんなことは気にかけもせず、木登りさながらにビルをするすると昇っていった。いびつな形状をしているために、指をかける突起部にはことかかない。が、足や指がかかるたびに、どこかのでっぱりが崩れ、剥落はくらくしていく。
「アスカ、注意して。もうすぐヤツラの射程距離よ」
 それまで黙って戦況を見守っていた春日リンが注意を促した。そのひとことにアスカはフラストレーションを爆発させた。
「そんなことより、この右手ぇぇ!。逆向きでうまく引っかけられないわよぉぉ」
「なによ、見事に使いこなしてるんじゃないのぉ?」
 リンの専門家とは思えない無責任なことばにイラッとした。
 もう一度上をみる。リンが指摘したように、たしかに天井すれすれまで来ている。モニタ上に『高度400メートル』の表示がみえる。

 落下したら怪我を負いかねない高さね——。

 だが、その危険性などは端からわかっていることだ。アスカは天井近くに集結している魔法少女たちに目をやった。
 魔法少女たちと目があう。だれもがセラ・ヴィーナスを睨みつけていた。さきほどより羽音が大きくなったように感じられた。
 警戒色を強めているのは確かだ。
 だが、だれひとりとして襲ってこようとしなかった。地上ちかくまで降りてきていた部隊は、なんの躊躇ちゅうちょもなく襲ってきたというのに……。
 
 なにかを守ってる……?。

 アスカの脳裏にそんな疑問がふっと浮かんだ。
 イオージャと対峙たいじしたとき、一群の魔法少女は自分たちのからだを盾にして、亜獣を守ろうとした。攻撃する隙があっても、一定数の魔法少女は防衛に徹していた——。
 ならば天井から動かずに、こちらの出方をうかがっているというのは、その付近に亜獣がいる、ということを示唆しているのかもしれない。

「アスカ、『なにかを守っている』ってどういうこと?」

 ヘッドギアに搭載された脳内通信システム代替装置の外部型『テレパス・ライン』を通じて自分の考察の一部がリンに伝わったらしい。

「メイ、あの魔法少女、あそこから動かないの。あれはなにかを守ろうとしているように、あたしには感じる。どう思う?」
しおりを挟む

処理中です...