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第三章 第四節 エンマ・アイ

第607話 亜獣と魔法少女を通路まで連れて来い

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「たぶんこの一枚の隔壁だけ閉まっているのでは不安だったんだと思う……」
「どういうことよ?」
 ミサトが声を荒げた。

「アスカたちが使っている通路は全部の隔壁が閉じていて、電波もなにもかも遮断されている。でもここはたった一枚しか隔壁が閉じられてなかった。外部まで距離があったとしても、これでは魔法がもれだす可能性が高い」
「ってことはなによ。隔壁一枚では不安だから通路を塞いで、魔法が漏れだすのを防ごうとしたっていうの?」
 レイは首を横にふった。
「ううん。そんなことはわかっていたはず。だからキーヘーと一緒に、こちらを混乱させるようなことを言った」

「隔壁部分を埋めたのは、もっと重要ななにかが奥にあるので、だれも近づけさせないようにするためだと思う」


 だれもがそれについてなにも言えなかった。が、その見解を受けて司令部のほうで、なにか動きだしたらしかった。モニタのむこうで草薙大佐がどこかに指示を飛ばしているのが見えた。

「いや、それは無茶でしょう!」
 声をあげたのは、草薙がこの作戦のために招聘しょうへいしたイシカワという男だった。草薙が指示を送っていたのは彼のようだった。なんでもエア・バイクの操縦にたけていて、草薙大佐も彼に教えをこうたほどだと聞いていた。
 イシカワは口の周りに髭を生やしている、すこし痩せこけた男で、ほかの兵士よりすこしばかり年配であるのは確かだった。髭のせいで歳をくっているように感じるだけかもしれないが、すくなくともクララには、自分の人生で出会った大人でも、かなり歳をとって感じられた人物であるのはたしかだった。
  
「亜獣と魔法少女をこの通路まで連れて来るって……」

 イシカワのつぶやきを耳にして、彼らが秘匿回線で交わしている作戦は、耳を疑うような荒唐無稽こうとうむけいなものとわかった。おもわずクララは自分の意見を口にしようとした。
 だが、草薙に邪魔された。
「みんな、そこの天井部分をみて欲しい」
 司令室にいる草薙大佐が、自分の音声回線を開放して、全員に説明をはじめたせいで、そのタイミングを逸した。目の前の映像モニタに、ふさがれた通路の天井付近が映しだされる。 
「天井付近にわずかに隙間があり、かろうじてエア・バイクは通り抜けられることがわかった。デミリアンがむこう側に通り抜けるすべをうしなっているのなら、通り抜けられる連中がむこうへ行って、どうにかしてここまで亜獣を引き連れてきてもらいたい?」
 兵士たちはあきらかにざわついていた。さきほど草薙が指示していた作戦が、そんな無謀なものだったのだと、今わかったらしい。
「亜獣の前に魔法少女はどうするのですか?」
 兵士のひとりから声があがった。当然の疑問だ。
「魔法少女ごと連れてきてくるしかあるまい」
 草薙は顔色ひとつ変えることなく、とんでもなく難易度の高いことを言った。
「デミリアンの武器かなんかで、この土砂を吹き飛ばしちまえばいいんじゃないかい?」
 イシカワが草薙に食い下がった。
「イシカワ、それが難しいから言っている。こちらのシミュレーションでは、これだけの土砂を一気に吹き飛ばそうとすれば、この坑道自体がもたないらしい。やるとしても数回にわけて小刻みに取り除くしかない」
「なるほどね。時間をむだにしたくないってぇことかい」
「そういうことだ」
「だけど都市に侵入しても、亜獣どころか魔法少女に出会えるかどうかもわかんないんじゃねぇかい」
「イシカワ、こんな作戦、空振りにおわると?」
「じゃあねぇんですかい……」

「しかし、この作戦を考えてくれたのは、レイなのだがね」

 レイの名前を口にされて、おもわずクララは画面のむこうのレイに目をむけた。おそらくものすごい視線がモニタ越しにレイに注がれているにちがいない。だが、レイはそれだけ注目されているのを、あきらかに意識しながらも、とつとつとしゃべりはじめた。

「この奥にだれも近づけたくないなにかがあるなら、あんな土砂程度で大丈夫なんて思ってない。ぜったいに次の手段も考えているはず……」


「たぶん、すぐ近くに亜獣か魔法少女が潜んでいる……」
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