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第三章 第四節 エンマ・アイ
第600話 私は恐怖しているのだ……
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アイはぎゅっとこぶしを握りしめた。
なんとか自分の感情を制御しようとしているように私には思えた。がふいに力を緩めると、ボソリと呟くように言った。
「タケルったらね、亜獣を全部駆逐したら、あたしとツガってくれるって言ってくれたの……」
アイは目元を拭いながら、私の顔をみあげてきた。
「年月がどんなに経っても、おばさんになったあたしに必ず恋してくれるって約束してくれたの」
そう言ってアイがうれしそうに笑った。目からつぅーーと涙が流れ落ちる。
「だから、タケルはきっと最後まで戦ってくれるわ」
「そうよ。タケルくんは約束を絶対にたがわない。アイ、あなたが信じてあげなくてどうするの」
「うん。ごめんなさい。あたし、とっても怖かった……。でも信じる」
私はアイを励まそうと、彼女の両肩に手を乗せて、軽く力をいれた。
信じられないことに、その手が小刻みに震えていた。
なぜ、震えているの——。
そのとき、私は気づいた。
私は恐怖しているのだと……。
それはアイがこれほどまでに取り乱すのをはじめて見たせいだ。
アイは泣き出したり、怒ったり、感情を露にするシーンにはなんどか遭遇したことはある。それをヤマト・ナオエ隊長が叱咤していたことも知っている。
だが、これほど取り乱しているのは——。
これはもはや錯乱と言っていい……。
ヤマト・ナオエ隊長とツルゴ・テツヤ副隊長の二人のベテランパイロットを今回の戦いで失ってしまったという悲しみもあるのかもしれない。精神的支柱であるふたりを一度にうしなったことは、取り返しがつかないほどおおきな損失だ。
だが、それが起きてしまった以上、残った人員で戦うしかないのだ。
怪我を負ったヤマトタケルを除けば、カミナ・アヤトとエンマ・アイしか残っていない。
それだけでも戦慄すべきなのに、そのうちの一枚のカードが危険な状能になっているのを今まざまざと見せつけられた。ヤマト隊長が存命であれば、彼女を再教育して感情を制御できる方向へ導いてくれたかもしれない。
もうそれが叶わないとしたら、エンマ・アイの不安定な感情が、ヤマト・タケルとカミナ・アヤトにおおきな影響を及ぼすかもしれない。
もしかしたら人類の命運は、今わたしが触れている、ガラスのように簡単に壊れそうな少女次第なのかもしれない——。
そしてこの職務を続けていく先には……。
私が100億人の地球人のなかで一番最初に、地球最後の瞬間を知る人間のひとりになるかもしれない——。
そんなの受けとめられるはずがない……。
ゾクッとからだが震えた。
なんとか自分の感情を制御しようとしているように私には思えた。がふいに力を緩めると、ボソリと呟くように言った。
「タケルったらね、亜獣を全部駆逐したら、あたしとツガってくれるって言ってくれたの……」
アイは目元を拭いながら、私の顔をみあげてきた。
「年月がどんなに経っても、おばさんになったあたしに必ず恋してくれるって約束してくれたの」
そう言ってアイがうれしそうに笑った。目からつぅーーと涙が流れ落ちる。
「だから、タケルはきっと最後まで戦ってくれるわ」
「そうよ。タケルくんは約束を絶対にたがわない。アイ、あなたが信じてあげなくてどうするの」
「うん。ごめんなさい。あたし、とっても怖かった……。でも信じる」
私はアイを励まそうと、彼女の両肩に手を乗せて、軽く力をいれた。
信じられないことに、その手が小刻みに震えていた。
なぜ、震えているの——。
そのとき、私は気づいた。
私は恐怖しているのだと……。
それはアイがこれほどまでに取り乱すのをはじめて見たせいだ。
アイは泣き出したり、怒ったり、感情を露にするシーンにはなんどか遭遇したことはある。それをヤマト・ナオエ隊長が叱咤していたことも知っている。
だが、これほど取り乱しているのは——。
これはもはや錯乱と言っていい……。
ヤマト・ナオエ隊長とツルゴ・テツヤ副隊長の二人のベテランパイロットを今回の戦いで失ってしまったという悲しみもあるのかもしれない。精神的支柱であるふたりを一度にうしなったことは、取り返しがつかないほどおおきな損失だ。
だが、それが起きてしまった以上、残った人員で戦うしかないのだ。
怪我を負ったヤマトタケルを除けば、カミナ・アヤトとエンマ・アイしか残っていない。
それだけでも戦慄すべきなのに、そのうちの一枚のカードが危険な状能になっているのを今まざまざと見せつけられた。ヤマト隊長が存命であれば、彼女を再教育して感情を制御できる方向へ導いてくれたかもしれない。
もうそれが叶わないとしたら、エンマ・アイの不安定な感情が、ヤマト・タケルとカミナ・アヤトにおおきな影響を及ぼすかもしれない。
もしかしたら人類の命運は、今わたしが触れている、ガラスのように簡単に壊れそうな少女次第なのかもしれない——。
そしてこの職務を続けていく先には……。
私が100億人の地球人のなかで一番最初に、地球最後の瞬間を知る人間のひとりになるかもしれない——。
そんなの受けとめられるはずがない……。
ゾクッとからだが震えた。
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