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第三章 第四節 エンマ・アイ

第587話 トグサは責任感のある頼れる男だ

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「そんなわけないでしょ」
 アスカは力づよく否定しながら、あのときを思い出していた。
 それは兄のリョウマの一連のが終わったあと、憲兵隊エリアにお悔やみの挨拶にいった時——。憔悴した様子を隠せないながらもトグロ兄弟は、アスカを暖かくむかえてくれた。思い出すたびに、苦い気持ちがこみあげる。
 アスカの口調がつい強くなる。
「草薙大佐、もしそんなことで気に病んでたら、あなたの部下はどうなのよ。あたしたちを守るために目の前で亡くなったのよ。あたし、感謝はしても、それをひきずったりしない」
「そうね。あなたはそう。じゃあなんでかしら?」

「トグロ中佐が李子さんとラブラブなのが気に入らないんですわ」
 ふいにうしろからクララが声をあげた。打ち合せが終ったのか、そのうしろにバットー中佐がついてきた。
「え?。あ、ち、ちょっと、クララさん……」
 あわてたのはトグロ中佐だった。
「だってこの間、わたしたちが病室にお見舞いにいった時、ずうと李子さんが横に付き添うっていたでしょ」
「あ、いや、そうですが……」
「クララ、そうは言っても、このトグサはアイダ先生を命懸けで助けて、おおきな傷を負ったからな。彼女が心配するのも無理はない」
 草薙が通りいっぺんの解釈を口にした。アスカはそれも気にくわなかった。
「はん、だからと言って、あたしたちがいるのにずっと手を握りあってるって!」
「いや、それはその……」
「あなたたち、エンベッド(生体チップ埋込み者)は、あたしらと違って『ラピッド・ヒーリング(迅速治癒)』を受けられるかもしれないけど、あんな大怪我してから五日よ、たったの五日!。もうちょっと寝てなさいよね」
 アスカが強い口調で牽制すると、クララがすこしからかい気味に茶化してきた。
「あら、アスカさんはトグロ中佐にもうすこし養生して、李子さんと仲を深めろって奨めているのかしら?」
「あんた、ボカぁ、クララ。なんであたしが人の恋路に口を挟むのよぉ。あたしは気持ちが浮ついている人と一緒に任務にあたりたくないだけ!」
「アスカ、わたしはトグサが充分現場で力を発揮できると思っているから戻した」
 草薙が淡々と正論を言ったが、トグロ中佐はすこしあわてて言い訳を口にした。
「アスカさん、ちょ、ちょっと待ってください。わたしはなにも浮ついたりなど……」

「ああ、わたしが保証する。トグサはそんな男ではない。責任感のある頼れる男だ」

 トグサはそれを聞くなり、すっと姿勢をただして、感じ入った様子で目を閉じた。場当たり的なものであったとしても、草薙の口から称賛のことばを引きだせたことが、よほど嬉しかったのだろう。
 アスカはその姿を苦々しく眺めながら言った。
「はん、草薙大佐にそこまで言わせる人ってことね!。じゃあ、いいわ。ただ、あたしはあなたのことは気にいらない。それは覚えててよ、トグロ中佐」
 アスカが感情を目一杯おさえて淡々とした口調でそう念を押すと、トグロは目を開いてアスカにむかってなにかを抗弁しようとした。
「言い訳は不要よ。あたしの一方的な感情だから……」
 アスカはこれでこの話は終わりとばかりに、トグロの発言を強い口調で封じた。


「あたし、恋路がうまくいっているひとがとっても嫌いなの!」
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