588 / 1,035
第三章 第四節 エンマ・アイ
第587話 トグサは責任感のある頼れる男だ
しおりを挟む
「そんなわけないでしょ」
アスカは力づよく否定しながら、あのときを思い出していた。
それは兄のリョウマの一連のが終わったあと、憲兵隊エリアにお悔やみの挨拶にいった時——。憔悴した様子を隠せないながらもトグロ兄弟は、アスカを暖かくむかえてくれた。思い出すたびに、苦い気持ちがこみあげる。
アスカの口調がつい強くなる。
「草薙大佐、もしそんなことで気に病んでたら、あなたの部下はどうなのよ。あたしたちを守るために目の前で亡くなったのよ。あたし、感謝はしても、それをひきずったりしない」
「そうね。あなたはそう。じゃあなんでかしら?」
「トグロ中佐が李子さんとラブラブなのが気に入らないんですわ」
ふいにうしろからクララが声をあげた。打ち合せが終ったのか、そのうしろにバットー中佐がついてきた。
「え?。あ、ち、ちょっと、クララさん……」
あわてたのはトグロ中佐だった。
「だってこの間、わたしたちが病室にお見舞いにいった時、ずうと李子さんが横に付き添うっていたでしょ」
「あ、いや、そうですが……」
「クララ、そうは言っても、このトグサはアイダ先生を命懸けで助けて、おおきな傷を負ったからな。彼女が心配するのも無理はない」
草薙が通りいっぺんの解釈を口にした。アスカはそれも気にくわなかった。
「はん、だからと言って、あたしたちがいるのにずっと手を握りあってるって!」
「いや、それはその……」
「あなたたち、エンベッド(生体チップ埋込み者)は、あたしらと違って『ラピッド・ヒーリング(迅速治癒)』を受けられるかもしれないけど、あんな大怪我してから五日よ、たったの五日!。もうちょっと寝てなさいよね」
アスカが強い口調で牽制すると、クララがすこしからかい気味に茶化してきた。
「あら、アスカさんはトグロ中佐にもうすこし養生して、李子さんと仲を深めろって奨めているのかしら?」
「あんた、ボカぁ、クララ。なんであたしが人の恋路に口を挟むのよぉ。あたしは気持ちが浮ついている人と一緒に任務にあたりたくないだけ!」
「アスカ、わたしはトグサが充分現場で力を発揮できると思っているから戻した」
草薙が淡々と正論を言ったが、トグロ中佐はすこしあわてて言い訳を口にした。
「アスカさん、ちょ、ちょっと待ってください。わたしはなにも浮ついたりなど……」
「ああ、わたしが保証する。トグサはそんな男ではない。責任感のある頼れる男だ」
トグサはそれを聞くなり、すっと姿勢をただして、感じ入った様子で目を閉じた。場当たり的なものであったとしても、草薙の口から称賛のことばを引きだせたことが、よほど嬉しかったのだろう。
アスカはその姿を苦々しく眺めながら言った。
「はん、草薙大佐にそこまで言わせる人ってことね!。じゃあ、いいわ。ただ、あたしはあなたのことは気にいらない。それは覚えててよ、トグロ中佐」
アスカが感情を目一杯おさえて淡々とした口調でそう念を押すと、トグロは目を開いてアスカにむかってなにかを抗弁しようとした。
「言い訳は不要よ。あたしの一方的な感情だから……」
アスカはこれでこの話は終わりとばかりに、トグロの発言を強い口調で封じた。
「あたし、恋路がうまくいっているひとがとっても嫌いなの!」
アスカは力づよく否定しながら、あのときを思い出していた。
それは兄のリョウマの一連のが終わったあと、憲兵隊エリアにお悔やみの挨拶にいった時——。憔悴した様子を隠せないながらもトグロ兄弟は、アスカを暖かくむかえてくれた。思い出すたびに、苦い気持ちがこみあげる。
アスカの口調がつい強くなる。
「草薙大佐、もしそんなことで気に病んでたら、あなたの部下はどうなのよ。あたしたちを守るために目の前で亡くなったのよ。あたし、感謝はしても、それをひきずったりしない」
「そうね。あなたはそう。じゃあなんでかしら?」
「トグロ中佐が李子さんとラブラブなのが気に入らないんですわ」
ふいにうしろからクララが声をあげた。打ち合せが終ったのか、そのうしろにバットー中佐がついてきた。
「え?。あ、ち、ちょっと、クララさん……」
あわてたのはトグロ中佐だった。
「だってこの間、わたしたちが病室にお見舞いにいった時、ずうと李子さんが横に付き添うっていたでしょ」
「あ、いや、そうですが……」
「クララ、そうは言っても、このトグサはアイダ先生を命懸けで助けて、おおきな傷を負ったからな。彼女が心配するのも無理はない」
草薙が通りいっぺんの解釈を口にした。アスカはそれも気にくわなかった。
「はん、だからと言って、あたしたちがいるのにずっと手を握りあってるって!」
「いや、それはその……」
「あなたたち、エンベッド(生体チップ埋込み者)は、あたしらと違って『ラピッド・ヒーリング(迅速治癒)』を受けられるかもしれないけど、あんな大怪我してから五日よ、たったの五日!。もうちょっと寝てなさいよね」
アスカが強い口調で牽制すると、クララがすこしからかい気味に茶化してきた。
「あら、アスカさんはトグロ中佐にもうすこし養生して、李子さんと仲を深めろって奨めているのかしら?」
「あんた、ボカぁ、クララ。なんであたしが人の恋路に口を挟むのよぉ。あたしは気持ちが浮ついている人と一緒に任務にあたりたくないだけ!」
「アスカ、わたしはトグサが充分現場で力を発揮できると思っているから戻した」
草薙が淡々と正論を言ったが、トグロ中佐はすこしあわてて言い訳を口にした。
「アスカさん、ちょ、ちょっと待ってください。わたしはなにも浮ついたりなど……」
「ああ、わたしが保証する。トグサはそんな男ではない。責任感のある頼れる男だ」
トグサはそれを聞くなり、すっと姿勢をただして、感じ入った様子で目を閉じた。場当たり的なものであったとしても、草薙の口から称賛のことばを引きだせたことが、よほど嬉しかったのだろう。
アスカはその姿を苦々しく眺めながら言った。
「はん、草薙大佐にそこまで言わせる人ってことね!。じゃあ、いいわ。ただ、あたしはあなたのことは気にいらない。それは覚えててよ、トグロ中佐」
アスカが感情を目一杯おさえて淡々とした口調でそう念を押すと、トグロは目を開いてアスカにむかってなにかを抗弁しようとした。
「言い訳は不要よ。あたしの一方的な感情だから……」
アスカはこれでこの話は終わりとばかりに、トグロの発言を強い口調で封じた。
「あたし、恋路がうまくいっているひとがとっても嫌いなの!」
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
「何でも屋ジャック~宇宙海賊王の秘宝~」
愛山雄町
SF
銀河帝国歴GC1032年。
銀河系オリオン腕の外縁部近くの辺境で、“何でも屋”のジャック・トレードは仲間のジョニー、ヘネシー、シェリーとともに、輸送や護衛、調査などあらゆる仕事を受けていた。
今回の依頼はいわゆる“高跳び”。
マフィアに追われる美女と美少女を、帝国軍基地まで無事に運ぶという仕事で、彼にとってはそれほど難しい仕事ではないはずだった。
しかし、辺境のマフィアとは思えぬ執拗さに、ジャックたちは徐々に追い詰められていく。
150メートル級の偵察(スループ)艦を改造した愛艦「ドランカード(酔っ払い)号」を駆り、銀河の辺境を縦横無尽に駆け巡る。
そして、数百年前の伝説の海賊王、バルバンクール。その隠された秘宝が彼らの運命を変える。
昭和の時代の宇宙冒険活劇(スペースオペラ)を目指しています。
古き良き時代?の“スペオペ”の香りを感じてもらえたら幸いです。
本作品はクリフエッジシリーズと世界観を共有しています。
時代的にはクリフォードのいる時代、宇宙暦4500年頃、帝国歴に直すと3700年頃から2700年ほど前に当たり、人類の文明が最高潮に達した時代という設定です。
小説家になろうにも投稿しております。
私たちの試作機は最弱です
ミュート
SF
幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた
主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。
その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、
自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。
AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。
整備士の卵であるパートナー・明宮哨。
学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。
皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。
後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、
彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。
※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも
同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。
こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので
続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。
※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。
一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。
後方支援なら任せてください〜幼馴染にS級クランを追放された【薬師】の私は、拾ってくれたクラマスを影から支えて成り上がらせることにしました〜
黄舞
SF
「お前もういらないから」
大人気VRMMORPGゲーム【マルメリア・オンライン】に誘った本人である幼馴染から受けた言葉に、私は気を失いそうになった。
彼、S級クランのクランマスターであるユースケは、それだけ伝えるといきなりクラマス権限であるキック、つまりクラン追放をした。
「なんで!? 私、ユースケのために一生懸命言われた通りに薬作ったよ? なんでいきなりキックされるの!?」
「薬なんて買えばいいだろ。次の攻城戦こそランキング一位狙ってるから。薬作るしか能のないお前、はっきり言って邪魔なんだよね」
個別チャットで送ったメッセージに返ってきた言葉に、私の中の何かが壊れた。
「そう……なら、私が今までどれだけこのクランに役に立っていたか思い知らせてあげる……後から泣きついたって知らないんだから!!」
現実でも優秀でイケメンでモテる幼馴染に、少しでも気に入られようと尽くしたことで得たこのスキルや装備。
私ほど薬作製に秀でたプレイヤーは居ないと自負がある。
その力、思う存分見せつけてあげるわ!!
VRMMORPGとは仮想現実、大規模、多人数参加型、オンライン、ロールプレイングゲームのことです。
つまり現実世界があって、その人たちが仮想現実空間でオンラインでゲームをしているお話です。
嬉しいことにあまりこういったものに馴染みがない人も楽しんで貰っているようなので記載しておきます。
スペーストレイン[カージマー18]
瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。
久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。
そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。
さらば自由な日々。
そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。
●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。
代わりはいない。だから
志賀雅基
SF
◆ポアンカレと漱石と/計算上は驚異だが/単純で気紛れで/故に絶対見逃すな◆
〔ディアプラスBL小説大賞第三次選考通過作〕[全13話]
リマライ星系の広域惑星警察刑事・コウはテラ本星からの出張帰りに宙艦でドラール星系の刑事・結城と偶然出会う。コウは相棒ともども撃たれて相棒は一生目覚めぬ眠りの中。片や結城はテラ本星での爆破テロで里帰りしていた相棒を亡くし墓参の帰りだった。二人は成り行きで同宿することになったが……。
▼▼▼
【シリーズ中、何処からでもどうぞ】
【全性別対応/BL特有シーンはストーリーに支障なく回避可能です】
【エブリスタ・ノベルアップ+に掲載】
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。
理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。
彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。
そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。
そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。
さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。
司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。
その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。
そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。
そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。
その宿命に誠は耐えられるか?
SFお仕事ギャグロマン小説。
骸を喰らいて花を咲かせん
藍染木蓮 一彦
SF
遺伝子操作された少年兵たちが、自由を手に入れるまでの物語───。
第三次世界大戦の真っ只中、噂がひとり歩きしていた。
鬼子を集めた、特攻暗殺部隊が存在し、陰で暗躍しているのだとか。
【主なキャラクター】
◾︎シンエイ
◾︎サイカ
◾︎エイキ
【その他キャラクター】
◾︎タモン
◾︎レイジ
◾︎サダ
◾︎リュウゴ
◾︎イサカ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる