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第三章 第四節 エンマ・アイ
第573話 タケル、もうひとつおねだりしていい?
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「タケル、もうひとつおねだりしていい?」
「うん、ぼくにできることなら……」
「あたし、あなたに指導……、ううん、教えてもらいたいことがあるの」
「ぼくがきみに教える?」
「うん。今まではあたしが教えてばかりだったけど、お姉さんだからって何でも知ってるわけじゃないわ。あなたじゃないと教えられないことだってあるの」
「ぼくがきみに教えられることなんか……」
「キスの仕方を教えて」
ぼくはその瞬間、どんな顔をしたのか憶えてない。だらしないマヌケ面だったのか、凛々しいキザ面だったのか。まったく記憶がない。
「あたしむかしから、成人する前までに大人の経験をしておきたいって、ずっと思ってた。でもそれができない、しちゃいけないって、知らされてから、せめてキスだけでもって、ずっと願ってたの」
アイは哀しげな目でチラリと時計を見た。明日になるまであと一分もなかった。
ぼくはその時はじめて、自分たちが地球最期の日本人の、男の子と女の子なんだとつよく意識した。
「アイ、ぼくはきみに教えられない。そんな経験なんかないから……。だけどふたりで一緒に学んでいくことはできると思う。それじゃだめ?」
「ううん」
アイがちいさく首を横にふった。
「アイ、一緒に経験していこう」
ぼくはアイの肩に手を置いてから、しずかにくちびるを重ねた。
ぼくも初めてだったから、これであっているのかわからなかった。でもお互いの心が信じるまま、互いのくちびるを慈しんだ。
キスのあと、アイが潤んだ瞳でぼくを見つめて言った。
「タケル、あたし嬉しい。願いが叶った」
「ぎりぎりだったけどね」
ぼくは今、まさに次の日になった時計を見つめてそう言うと、アイは目をふせて「うん」とだけ言った。でもすぐにおおきな目を見開いて、ぼくをやさしく睨みつけた。
「でも、ちょっと痛かったっ!」
「ごめん、でもしょうがないさ。アイは唇切っちゃってるんだもの。ぼくは血の味がした」
「もう、こんなに最高な瞬間なのに、サイテーじゃないのぉ」
「またサイテーに最高?。でもきみが怪我してなきゃ、ぼくはここに来てない」
「ま、まぁ、そうだけどぉ」
不服そうに頷くと、時計に目をやってからぼくを見あげた。
「ねぇ、タケル、もう一回!。今度はあたしが成人になっての、はじめてのキス!」
その屈託のない笑顔がちょっと腹立たしかったので、ぼくは有無を言わさず、彼女の口を塞いでやることにした。
今度はもっと深く、もっと長く、そしてもっと強く——。
「うん、ぼくにできることなら……」
「あたし、あなたに指導……、ううん、教えてもらいたいことがあるの」
「ぼくがきみに教える?」
「うん。今まではあたしが教えてばかりだったけど、お姉さんだからって何でも知ってるわけじゃないわ。あなたじゃないと教えられないことだってあるの」
「ぼくがきみに教えられることなんか……」
「キスの仕方を教えて」
ぼくはその瞬間、どんな顔をしたのか憶えてない。だらしないマヌケ面だったのか、凛々しいキザ面だったのか。まったく記憶がない。
「あたしむかしから、成人する前までに大人の経験をしておきたいって、ずっと思ってた。でもそれができない、しちゃいけないって、知らされてから、せめてキスだけでもって、ずっと願ってたの」
アイは哀しげな目でチラリと時計を見た。明日になるまであと一分もなかった。
ぼくはその時はじめて、自分たちが地球最期の日本人の、男の子と女の子なんだとつよく意識した。
「アイ、ぼくはきみに教えられない。そんな経験なんかないから……。だけどふたりで一緒に学んでいくことはできると思う。それじゃだめ?」
「ううん」
アイがちいさく首を横にふった。
「アイ、一緒に経験していこう」
ぼくはアイの肩に手を置いてから、しずかにくちびるを重ねた。
ぼくも初めてだったから、これであっているのかわからなかった。でもお互いの心が信じるまま、互いのくちびるを慈しんだ。
キスのあと、アイが潤んだ瞳でぼくを見つめて言った。
「タケル、あたし嬉しい。願いが叶った」
「ぎりぎりだったけどね」
ぼくは今、まさに次の日になった時計を見つめてそう言うと、アイは目をふせて「うん」とだけ言った。でもすぐにおおきな目を見開いて、ぼくをやさしく睨みつけた。
「でも、ちょっと痛かったっ!」
「ごめん、でもしょうがないさ。アイは唇切っちゃってるんだもの。ぼくは血の味がした」
「もう、こんなに最高な瞬間なのに、サイテーじゃないのぉ」
「またサイテーに最高?。でもきみが怪我してなきゃ、ぼくはここに来てない」
「ま、まぁ、そうだけどぉ」
不服そうに頷くと、時計に目をやってからぼくを見あげた。
「ねぇ、タケル、もう一回!。今度はあたしが成人になっての、はじめてのキス!」
その屈託のない笑顔がちょっと腹立たしかったので、ぼくは有無を言わさず、彼女の口を塞いでやることにした。
今度はもっと深く、もっと長く、そしてもっと強く——。
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