570 / 1,035
第三章 第四節 エンマ・アイ
第569話 そこで思いがけないアクシデントがおきた
しおりを挟む
その亜獣は風を操る能力があって、空中から降下していった三体のデミリアンを、まずは近づけさせなかった。
まるで亜獣のまわりに暴風圏があるように気流が乱れ、あらゆるものをはね飛ばした。それはさながら歩きまわる台風——。この亜獣がもし都市に出現していたら、その被害は甚大なものになっただろう。
父たちは気流の真上からの攻撃を試みることになった。気流の目になる位置からしか、亜獣への攻撃が到達しえないという結論に到ったからだ。
当初、アイが自分が降下するといってきかなかったが、機動性を重視して飛行用の装備が強化されていないアイの機体では不利だと説得されて渋々納得した。父とアイがそれぞれと槍で攻撃し亜獣の注意をできるだけひきつけ、その間隙を縫ってシモンが上空から仕留めるという布陣がきまった。
作戦がはじまると、横殴りの風に邪魔をされて、アイの槍も父さんの刀も亜獣にまともに届かなかった。皮膚をひっかく程度の攻撃だったが、亜獣の注意をひく程度には効果があった。
だが、そこで思いがけないアクシデントがおきた。
ダメ元で突き出したアイのセラ・ヴィーナスの槍が、風の防壁と『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』の壁をすり抜け、亜獣の腹に深々と刺さったのだ。致命傷ではないが、深手を負わせた、と思わせる一撃だった。
その一撃で亜獣の体躯が揺さぶられて、もんどりうって倒れると、まわりを取り巻いている暴風の向きが変わった。
倒れたからだに沿って、暴風は上をむいたのだ。
まったくの計算外だった——。
上空から飛びかかってドリルで頭を貫こうとしていたアヤトのセラ・マーズを、容赦ない風の塊が直撃した。斜め下から斜め上にむかって吹く気流が、アヤトの機体のバランスをうしなわせると同時に、おそろしく強烈な勢いで横側方向にはね飛ばした。なすすべもなく振り回されたセラ・マーズの機体は、そのままアイの乗るセラ・ヴィーナスに正面から叩きつけられた。
それはあっという間のできごとすぎて、司令室でモニタを見ていたクルーたちは声をあげる間もなかった。ぼくはただアイのコックピット内のモニタ映像だけを見ていたと思う。もちろんアヤトのセラ・マーズの状態も気になった。空中から叩き落とされた形になったのだから。
だけど、叩きつけられた側のアイのほうだって無傷で済むはずがない。
まるで亜獣のまわりに暴風圏があるように気流が乱れ、あらゆるものをはね飛ばした。それはさながら歩きまわる台風——。この亜獣がもし都市に出現していたら、その被害は甚大なものになっただろう。
父たちは気流の真上からの攻撃を試みることになった。気流の目になる位置からしか、亜獣への攻撃が到達しえないという結論に到ったからだ。
当初、アイが自分が降下するといってきかなかったが、機動性を重視して飛行用の装備が強化されていないアイの機体では不利だと説得されて渋々納得した。父とアイがそれぞれと槍で攻撃し亜獣の注意をできるだけひきつけ、その間隙を縫ってシモンが上空から仕留めるという布陣がきまった。
作戦がはじまると、横殴りの風に邪魔をされて、アイの槍も父さんの刀も亜獣にまともに届かなかった。皮膚をひっかく程度の攻撃だったが、亜獣の注意をひく程度には効果があった。
だが、そこで思いがけないアクシデントがおきた。
ダメ元で突き出したアイのセラ・ヴィーナスの槍が、風の防壁と『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』の壁をすり抜け、亜獣の腹に深々と刺さったのだ。致命傷ではないが、深手を負わせた、と思わせる一撃だった。
その一撃で亜獣の体躯が揺さぶられて、もんどりうって倒れると、まわりを取り巻いている暴風の向きが変わった。
倒れたからだに沿って、暴風は上をむいたのだ。
まったくの計算外だった——。
上空から飛びかかってドリルで頭を貫こうとしていたアヤトのセラ・マーズを、容赦ない風の塊が直撃した。斜め下から斜め上にむかって吹く気流が、アヤトの機体のバランスをうしなわせると同時に、おそろしく強烈な勢いで横側方向にはね飛ばした。なすすべもなく振り回されたセラ・マーズの機体は、そのままアイの乗るセラ・ヴィーナスに正面から叩きつけられた。
それはあっという間のできごとすぎて、司令室でモニタを見ていたクルーたちは声をあげる間もなかった。ぼくはただアイのコックピット内のモニタ映像だけを見ていたと思う。もちろんアヤトのセラ・マーズの状態も気になった。空中から叩き落とされた形になったのだから。
だけど、叩きつけられた側のアイのほうだって無傷で済むはずがない。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
簡単な水増しほど簡単にはいかないモノは無い
蓮實長治
SF
地獄への道は、善意や悪意で舗装されているのでは無い。
安易な選択をする事こそが地獄への道に足を踏み入れる事なのだ。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
【完結】中身は男子高校生が全寮制女子魔法学園初等部に入学した
まみ夜
SF
俺の名は、エイミー・ロイエンタール、六歳だ。
女の名前なのに、俺と自称しているのには、訳がある。
魔法学園入学式前日、頭をぶつけたのが原因(と思われていたが、検査で頭を打っていないのがわかり、謎のまま)で、知らない記憶が蘇った。
そこでは、俺は男子高校生で科学文明の恩恵を受けて生活していた。
前世(?)の記憶が蘇った六歳幼女が、二十一世紀初頭の科学知識(高校レベル)を魔法に応用し、産業革命直前のプロイセン王国全寮制女子魔法学園初等部で、この時代にはない『フレンチ・トースト』を流行らせたりして、無双する、のか?
題名のわりに、時代考証、当時の科学技術、常識、魔法システムなどなど、理屈くさいですが、ついてきてください。
【読んで「騙された」にならないための説明】
・ナポレオンに勝つには、どうすればいいのかを検討した結果、「幼女が幼女のままの期間では魔法でもないと無理」だったので、魔法がある世界設定になりました
・主人公はこの世界の住人で、死んでいませんし、転生もしていません。また、チート能力もありません。むしろ、肉体、魔法能力は劣っています。あるのは、知識だけです
・魔法はありますが、万能ではないので、科学技術も(産業革命直前レベルで)発達しています。
表紙イラストは、SOZAI LABより、かえるWORKS様の「フレンチトースト」を使用させていただいております。
「虚空の記憶」
るいす
SF
未来の世界では、記憶ストレージシステムが人々の生活を一変させていた。記憶のデジタル保存と再生が可能となり、教育や生活の質が飛躍的に向上した。しかし、この便利なシステムには、記憶の消失や改ざんのリスクも存在していた。ある日、システムの不具合で一部の記憶が消失し、人々の間に不安が広がる。消失した記憶の謎を追う若い女性リナが、真実を求めて冒険に身を投じることで、未来の社会に希望と変革をもたらす物語が始まる。
クトゥルフ神話trpg世界で無双はできますか?→可もなく不可もなし!
葉分
SF
君たちはクトゥルフ神話trpgというものを知っているだろうか?
プレイヤーが探索者を作り、そのキャラのロールプレイを行いシナリオという非日常を体験し遊ぶゲームである。
簡単に言えばダイスを振ったり、ロールプレイして謎の部屋から出たり、化け物をぶっ倒したり、そいつらから逃げたりしてハラハラ、ワクワクを楽しむものだ。
この物語はマジもんのクトゥルフtrpgの世界に入り込んだ1人のプレイヤーが死亡ロストせず楽しく無事生還しようと笑い、苦しみ、踠き続ける物語である。
⚠︎物語の都合上、さまざまなCOCシナリオのネタバレと個人的なクトゥルフ神話の解釈が含まれます。ご理解の上でご覧ください。
本作は、「 株式会社アークライト 」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』の二次創作物です。
使用するシナリオは配信サービスなどで使用許可が出ているものを使用しております。
私たちの試作機は最弱です
ミュート
SF
幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた
主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。
その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、
自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。
AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。
整備士の卵であるパートナー・明宮哨。
学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。
皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。
後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、
彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。
※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも
同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。
こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので
続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。
※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。
一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる