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第三章 第四節 エンマ・アイ

第569話 そこで思いがけないアクシデントがおきた

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 その亜獣は風を操る能力があって、空中から降下していった三体のデミリアンを、まずは近づけさせなかった。

 まるで亜獣のまわりに暴風圏があるように気流が乱れ、あらゆるものをはね飛ばした。それはさながら歩きまわる台風——。この亜獣がもし都市に出現していたら、その被害は甚大なものになっただろう。
 父たちは気流の真上からの攻撃を試みることになった。気流の目になる位置からしか、亜獣への攻撃が到達しえないという結論に到ったからだ。
 当初、アイが自分が降下するといってきかなかったが、機動性を重視して飛行用の装備が強化されていないアイの機体では不利だと説得されて渋々納得した。父とアイがそれぞれと槍で攻撃し亜獣の注意をできるだけひきつけ、その間隙を縫ってシモンが上空から仕留めるという布陣がきまった。
 作戦がはじまると、横殴りの風に邪魔をされて、アイの槍も父さんの刀も亜獣にまともに届かなかった。皮膚をひっかく程度の攻撃だったが、亜獣の注意をひく程度には効果があった。

 だが、そこで思いがけないアクシデントがおきた。

 ダメ元で突き出したアイのセラ・ヴィーナスの槍が、風の防壁と『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』の壁をすり抜け、亜獣の腹に深々と刺さったのだ。致命傷ではないが、深手を負わせた、と思わせる一撃だった。
 その一撃で亜獣の体躯が揺さぶられて、もんどりうって倒れると、まわりを取り巻いている暴風の向きが変わった。
 倒れたからだに沿って、暴風は上をむいたのだ。
 まったくの計算外だった——。
 上空から飛びかかってドリルで頭を貫こうとしていたアヤトのセラ・マーズを、容赦ない風の塊が直撃した。斜め下から斜め上にむかって吹く気流が、アヤトの機体のバランスをうしなわせると同時に、おそろしく強烈な勢いで横側方向にはね飛ばした。なすすべもなく振り回されたセラ・マーズの機体は、そのままアイの乗るセラ・ヴィーナスに正面から叩きつけられた。
 それはあっという間のできごとすぎて、司令室でモニタを見ていたクルーたちは声をあげる間もなかった。ぼくはただアイのコックピット内のモニタ映像だけを見ていたと思う。もちろんアヤトのセラ・マーズの状態も気になった。空中から叩き落とされた形になったのだから。

 だけど、叩きつけられた側のアイのほうだって無傷で済むはずがない。
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