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第三章 第四節 エンマ・アイ

第566話 アイへの誕生日プレゼント

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 アイの誕生日は2月6日だ。
 だけどぼくはいつだってそれを憶えていたためしなんてなかった。

 それでもアイの誕生日が近づいてくると、ぼくは否が応でも思い出させられる。アイがやたらそわそわしはじめるし、リンさんが「そろそろね」と耳打ちしてくるし、しょうとさんは「プレゼントきまった?」と具体的なアドバイスをくれようとする。それも一回だけでなく、リマインダーのように、何度も確認してくるのだからたまらない。
 先日、アイを悲しませたという負い目があったから、ぼくはちょっとばかり奮発しないといけない気持ちでいたが、今回はまわりからとくに強いプレッシャーをかけられてきていた。
 次の誕生日でアイは18歳。成人になるので今までの誕生日とは、比較にならないほど特別なものだ、ということで、やたらとまわりが気を揉んでいた。おかげで、プレゼントにかける予算が、ぼくのなかでもやたらと膨れあがり、当初の想定を完全にオーバーしていた。
 いままでぼくが選んだプレゼントは、いつもアイは喜んでいてくれたけど(それがその場を取り繕う方便だったとしても)、今回だけは本気で喜ぶものを選びたいと思い、しょうとさんに相談した。
 しょうとさんは待ってましたとばかりに、その話に飛びついてきたので、ぼくは少なからず不安にかられたけど、ほかにどうしようもない。
 仕事が終ってから『リアル・バーチャリティ・ルーム』でおちあうことになった。


「直接お店に買いにいったほうがよくないかしら」
 しょうとさんは開口番一番に提案してきた。
「冗談じゃないですよ。ぼくが街中にいくとなったら、複雑な手続きと、うんざりするほどの審査が必要なんですよ。それに草薙大佐以下精鋭部隊を何人を引き連れていかなきゃなんないし……」
「そうだったわね。じゃあせめて『ゴースト』でなく『素体』を使いましょう。実体のない『ゴースト』じゃあ、実物を手で触ったりできないからね」

 ぼくらはRVリアル・ヴァーチャリティ装置に身を沈めると、定額制課金方式サブスクリプション契約している素体カバードを使って、渋谷の街のへ繰り出すことにした。。しょうとさんは見たままの実物の自分を返映した容姿を憑依していた。だけど、ぼくはなぜか別人のペルソナにされていた。
 ショーウインドウに映った自分の姿を見て、ぼくはしょうとさんに訊いた。
「しょうとさん。これって……」
 しょうとさんは意味ありげにウインクをしてみせた。
「だって、タケルくん。あなたの正体、バレるわけいかないでしょ?」
「まぁ……、そうですけどぉ。でもこれって……」
「でもこれって」
「ええ、そうよ。私の元カレの早乙女・嵐磨さおとめ・らんま
「ええ、知ってます。いや……、でも、しょうとさんはシモンとつきあってるんでしょ?」
「うん。でもあの人もこれは知ってて、許してくれてる」
 そう言ってから、しょうとさんはすこし照れた様子で続けた。
「シモンがね。『おまえ、ひとりだけは、あいつのことを忘れないでやっててくれ』って』……」
「それは意地はってるだけだよ」
「うん。でもそれだけじゃない……」

 しょうとさんは首を横にふった。
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