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第三章 第四節 エンマ・アイ

第547話 女の子ってほんとうにわからない

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 女の子ってほんとうにわからない。

 ぼくはその時、心の底からそう思ったことを覚えている。

 あの気まずさいっぱいの祝勝パーティーからまるまる3日間、アイは目も合わせてくれなかった。
 当然だ。
 衆人の前であんな恥をかかせてしまったのだ。なによりも女性としてのプライドを傷つけてしまった。
 それはぼくも自覚していた。
 シモンやショートさんたちはいろいろ気を揉んでくれて、それとなく探りをいれてきた。けど、ぼくからなにひとつ譲歩は引きだせないと、早々に諦めてもらえたようだった。ぼくは自分の考え方は間違えていないと思うし、もし父さんが殴ってでも改めさせようとしても、ぼくはそれに徹底的にあらがう覚悟もあった。
 幸いそういういさかいが起きることもなかったし、父さんも、ツルゴおじさんも、今回の件についてとがめだてどころか、言及することさえしてこなかった。
 
 ぼくはなんとなくこのまましばらく冷却期間をおいてから、どこかの時点で、そう、たぶん次の亜獣が現われたタイミングあたりで、前とおなじような状況に戻るんだろう、って思っていた。

 だから、アイからキッチン裏の隠し部屋へ来るように、というメッセージを受けとった時はすこし戸惑いがあった。指示があった時間が真夜中だったので、行くかどうかすら迷ったけど、行かなければさらに関係がこじれると思い、なかば諦め半分で覚悟を決めた。
 自分の部屋を抜けだして、キッチンへ忍び込むように足を踏み入れると、驚いたことに沖田十三が待っていた。
 十三は日付をまたぐような夜中にもかかわらず、不満や迷惑げな表情を一切顔にあらわすことなく、軽く会釈して隠し扉を開いた。

「エル様。室内にお飲み物と軽食を用意しておきました」
「ああ、十三、すまない、こんな夜遅くに。あとはぼくがなんとかするから、君はもう下がってかまわないよ」
「かしこまりました。ではおことばに甘えて、そうさせていただきます」

 室内に入ると、入口の正面にあるRVリアル・ヴァーチャリティ装置のシートにアイが座っていた。ぼくが入ってくるのをじっと見ていたが、ちら見しただけでは、どんな気持ちでそこに座っているのかは見てとれなかった。
 ぼくはアイの正面になるシートに腰を降ろした。
「やあ、アイ、こんな夜更けに……」
 そこまで言ったところで、ぼくの座ったシートが予告もなく前にせりだした。アイのシートにそのままぶつかるのでは、と思うほどまで近接したところでシートが止まった。
 どうやらアイが遠隔操作したらしい。

「タケル、あなた、あたしがなぜ呼びだしたかわかる?」
「うん。なんとなくね。このあいだのパーティーの件だろ」
「えぇ、そうよ」
「でも、そのことなら……」
 ぼくは話を蒸し返されても、建設的な話にはならないと思ったので、話の機先を制しようとした。

「あたし、あなたに謝ろうと思って」
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