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第三章 第三節 進撃の魔法少女

第541話 心配するな。単体ではなんにもできん

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 アイダ李子がふいに背後で悲鳴をあげ、飛び退かんばかりにからだをうしろにずらした。そのまま後部シートの端から転げ落ちるのではという動きに、トグロはすぐさま振り向いた。
「どうしました?」
「手が!」
 トグロはあわてて李子が見つめる方向に目をやった。
 李子の足首を魔法少女の手がつかんでいた。
 トグロのからだが反射的に動いていた。バットーから渡されていた『マジカル・ソード』を腰から引き抜くと、上半身をひねって魔法少女の手に剣を突き出した。トグロの一撃は魔法少女の手の甲に突き刺さったが、そのまま持ちあげようとした拍子にスルリと抜け落ちた。

 刺さり方が弱かったか!。
 李子の足まで貫かないように、力を加減したせいで刺さり方が甘かったようだ。
 剣先から逃れた魔法少女の手は、そのまま車体の上を這い回り、車体の下部を通り抜けて、正面のバイクのカウル部分に現れた。指をたくみにまさぐりながら、バイクの真正面のライト部分にある引っ込みに指をかけてつかまる。
 まずい!。

『なにがまずい!』
 ふいに頭の中に草薙の声が響いた。『ニューロン。ストリーマ』で思考の一部を共有していたせいで、自分の焦った感情を気取けどられたようだった。
『草薙大佐。魔法少女の手に取りつかれています」
『魔法少女の手?。右手、左手、どっちだ?』
 トグロは今そんなことに何の重要性があるのかと憤慨しそうになったが、感情が湧き上がるまえに先に答えた。
『左手です』
『そうか、すまん。それは私がたたき落としそこねた部位のようだ』
『どうすれば……』
『心配するな。その手、単体ではなんにもできん』
 そう断言する草薙にトグロはすこし混乱した。いままさに自分たちが分解されようか、という瀬戸際に、やけに鷹揚おうようにかまえている。
『魔法少女は呪文を唱えなければ、あの分解光線は発動しないのだ。ことばを発する部位がない魔法少女は怖れるに足りん』
『つまり、頭がなければ、この残った手だけでは脅威ではないと……」
『あぁ。からだのほうは、わたしが真っ二つに斬った。とっくに落下している』
 トグロはシートからからだを浮かせて、フロント・カウルの正面に取りついている魔法少女の手を見ながら言った。
『了解しました。そのまま降下します。あとでパーツとして利用できないように……』

だが、それを遮るように、草薙の悲鳴にも似た警告の声が、トグロの脳を揺さぶった。


『トグサ!、逃げろ!』
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