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第三章 第三節 進撃の魔法少女

第531話 これでひとまず目の前の危機は去った

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 草薙のエア・バイクは時速300キロの猛スピードで、魔法少女の横をすり抜けていた。
 うしろを振り返る隙などない。すぐにブライトたちの乗る車の後部カメラ映像を網膜に呼び出す。
 魔法少女の頭のから生えていた三本の脚が、刎ね飛ばされてなくなっていた。それだけではない。腹を叩き切られて下半身もちぎれかかっているのもわかった。
 その下半身はほんの数秒風圧に耐えていたが、すぐに千切れて、頭に生えていた脚を追いかけるように落ちていった。
 だが上半身は左手一本でなんとか車にしがみついている。
 草薙はすぐさまバイクを反転させると、ふたたびすれ違いざまに剣を振るった。左腕を斬り落すと、返す刀で背中の羽根を削り取った。掴む腕と飛ぶための羽根をうしなった魔法少女は、なんの抵抗もできずそのまま飛ばされていった。
 必死で羽根を動かす、ビリビリという悪あがきの音が一瞬だけ聞こえたが、それもすぐに聞こえなくなった。
 
 これでひとまず目の前の危機は去った。

 安堵のため息とともに草薙はバイクのスピードを緩めると、ハンドルを切ってブライトたちの乗るスカイ・モービルのほうへ戻ろうとした。
 が、その草薙の目にその車の下方から何かのパーツがとれて、落ちていくのが映った。
 草薙の喉に苦い唾と同時に、悔しさがこみあげた。

 間に合ってなかった——。

------------------------------------------------------------
 アイダ李子はスカイ・モービルの後部座席から、草薙が魔法少女を駆逐するのを、はらはらしながら見守っていた。だが、実際には淀みない手際で、危なげなく排除してくれた。
 李子はどっとシートに沈み込んだ。
 魔法少女が観光バスの屋根から、こちらへ飛び移るタイミングをうかがっているのがわかって、内蔵がぎゅっと縮こまるような緊張をしいられた。このまま内蔵が収縮して無くなってしまうのではないかと恐怖したときに、どこからか草薙が助けに現れてくれた。
「ブライトさん……。もう大丈夫……そうです」
 安堵の息をおおきく吐き出しながら言うと、ブライトは咳払いをしてから答えた。
「えぇ。さすが、草薙大佐。いい仕事をしてくれました」
 すこし喉に痰がからみついたような声。おそらく彼も緊張していたのだろう。
 李子は網膜デバイス上にチカチカと瞬いているアラートに注意を移した。さきほどからずっといくつもの警告文が目の中で、のべつまくなしに点滅していた。
 精神科医の見解として、それは無理からぬ話だった。あれほどの危機に見舞われたのだ。脳内物質は分泌しぱなし、内蔵は収縮しまくり、心臓は早鐘のごとく鼓動を打ちまくっていたのだから。
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