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第三章 第三節 進撃の魔法少女

第527話 なにが起きたのかまったくわからなかった

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 トグロにはなにが起きたのかまったくわからなかった。

 しばらく魔法少女が取りついていた車窓を見つめていたが、いつのまにか後部座席の細目の兵士と顔を見合わせていた
「な、なにが起きたのでしょう」
「だからぁ、間に合ったんだよ」
 イシカワが後部シートに深くからだを沈めながら言った。
「えぇ。たしかにそうですが。なにが起きたのかが……」
 トグロはそう言ってから助手席側に移動し、開いたままになっている助手席のドアを閉めようと手を伸ばした。

 そこにバットーがいた。
 バットーがこちらを見あげたまま、ゆっくりと上昇してくる。
 トグロは目を疑う思いだった。
 今さきほど魔法少女にバラバラにされて、落下していったはずなのに、誰かと通信をしながら、こちらに笑みをむけている。
「アル、この『マジカル・ソード』って言ったっけ。ちゃんとぶった斬れるか心配したが、まぁうまくいったぜ。あ、いや、実際、こんなに切れ味がいいとは驚きだ」
 トグロはバットーが手にしている刀に目をやった。それは『移行領域』のむこうの相手を斬ることができる『マジカル・ソード』だった。
「だがアル、ぶっつけ本番は勘弁してほしいがね。オレじゃねぇとやれねぇぜ、こんなこと。なにせオレは伝説の剣客の血をひくサムライの末裔まつえいだからな」
 バットーはそううそぶくと、トグロのほうに目をむけて口を開いた。
「おいおい、トグロさんよ。なあに呆けてんだぁ。脅威は去ったんだ。さっさと中将を追っかけねえと草薙大佐にどやされンぞ」
 車窓近くまで近づいてきたバットーは背中に揚力装置をせおって、手に力を握っていた
 細目の兵士が目をぱちくりさせながら訊いた。
「バットー中佐。どういうことです?」
「バァカ、こっちは本物だよ。今追いついたんだよ」
「追いついた?」
「ああ、オレたちゃあ、最初からRVリアル・バーチャリティ装置が搭載された特別車でこっちに向かってたんだよ」
 そう言ってバットーが親指をつきあげて空を指さした
 トグロが上に目をむけると、上空の電磁誘導パルスレーンの『スーパー・スカウェイ・レーン』を滑るように移動していく国際連邦軍の特殊車両が見えた。
「もちろん、草薙大佐も一緒だ。先にいってるがな」
「だと思ったよ……」
 イシカワが半笑い気味にバットーに言った。

「姫さまが無策でここにくるとは思ってなかったさ」
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