上 下
521 / 1,035
第三章 第三節 進撃の魔法少女

第520話 人間でなんかではありえない異形をしていた

しおりを挟む
 フロント・ウインドウの助手席側部分に、上空の映像が映しだされた。

 上空に何本もの見えない道路が通っているのが見えた。スカイ・モービルがその上を滑るように走っている。いくつものレーンが多層的に重なり交差しているが、どのレーンもおびたただしい数の車がものすごいスピードで移動していた。
「あと20秒でレーンに乗り入れられます」
 ブライトが手元のスイッチをいじりながら言った。李子はふと急に不安になって、リア・ウィンドウのほうを振り向いた。
 四、五十メートルほど後方になにかが飛んでいた。
 人間とおなじように直立し、四肢がついていた。だがあきらかに人間ではない。人間でなんかではありえない異形をしていた。
 李子はあわてて目をそらすと、大声で運転席のブライトにむかって叫んだ。
「ブライトさん。急いでください。なにかが数十メートルうしろにいます!」
「あと数秒です。数秒でレーンに乗ります」

 間に合わない——。

 膝が抜けるような恐怖にとらわれた瞬間、一気に加速がかかり、強烈なGで前方にからだがふられた。スカイ・モービルが電磁誘導パルスレーンに乗り入れたのだとわかった。AIの運転ではあり得ないほど乱暴で、配慮にかけた合流だったが、おもわず安堵のため息が李子の口から漏れでた。
 あっと言う間に車が猛スピードで空中を滑っていき、さきほど異様なシルエットを見せつけた追手は、みるみるうちに遥か後方の『点』になった。
「もう大丈夫です!」
 ブライトが声高らかに宣言をした。なれない手動運転がうまくいったという高揚感もあるのだろう。すこし声が弾んで聞こえる。が、すぐに運転席のシートにぐっとからだを沈み込ませて、はあーっとおおきく嘆息した。
 その姿をみて李子もからだの緊張を緩めた。たちまちからだ中の関節の各所がきしんだ。思っていた以上にからだをこわばらせていたらしい。
 李子の口元がおもわずほころんだ。さきほどまでの頭がおかしくなるほどの恐怖から、一気に解き放たれて感情の緩急が制御ができずにいる。 

 しっかりしなさい。あなた精神科医でしょ——。

 李子はそう自分を叱咤しったすると口元をひきしめ、車窓に目をやった。
 そこには上空に設けられたスカイ・モービル用の見えない道路が何本も平行して走っていた。
 化石エネルギーがほぼ使い尽くされて、エネルギーの効率化のために作られた『電磁誘導パルス』の道路。ここに車を乗り入れれば、この『電磁誘導パルス』の流れに乗って、高速で移動させてくれる。
 車本体には最低限のエンジンモーターとバッテリしか積んでおらず、駐車するときか、おかしな気分に浮かれて地面を走りたくなったときくらいしか使わない。
 高度によって民生用、業務用、軍事用などとレーンはわかれていて、バスや船、そしてデミリアンでさえも、その力で移動する。

 この構想ができた当初は『空の川』と呼ばれていたらしいが、流れに乗ってただただ進んでいくのだから、言い得て妙と言っていいだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界TS転生で新たな人生「俺が聖女になるなんて聞いてないよ!」

マロエ
ファンタジー
普通のサラリーマンだった三十歳の男性が、いつも通り残業をこなし帰宅途中に、異世界に転生してしまう。 目を覚ますと、何故か森の中に立っていて、身体も何か違うことに気づく。 近くの水面で姿を確認すると、男性の姿が20代前半~10代後半の美しい女性へと変わっていた。 さらに、異世界の住人たちから「聖女」と呼ばれる存在になってしまい、大混乱。 新たな人生に期待と不安が入り混じりながら、男性は女性として、しかも聖女として異世界を歩み始める。 ※表紙、挿絵はAIで作成したイラストを使用しています。 ※R15の章には☆マークを入れてます。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

私たちの試作機は最弱です

ミュート
SF
幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた 主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。 その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、 自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。 AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。 整備士の卵であるパートナー・明宮哨。 学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。 皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。 後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、 彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。 ※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも  同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。  こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので  続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。 ※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。  一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。

スペーシアフォース

山ピー
SF
宇宙で平和を守るヒーローの物語

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

シグマの日常

Glace on!!!
SF
 博士に助けられ、瀕死の事故から生還した志津馬は、「シグマ」というね――人型ロボットに意識を移し、サイボーグとなる。  彼は博士の頼みで、世界を救うためにある少女を助けることになる。  志津馬はタイムトラベルを用い、その少女を助けるべく奔走する。  彼女と出会い、幾人かの人や生命と出逢い、平和で退屈な、されど掛け替えのない日常を過ごしていく志津馬。  その果てに出合うのは、彼女の真相――そして志津馬自身の真相。  彼女の正体とは。  志津馬の正体とは。  なぜ志津馬が助けられたのか。  なぜ志津馬はサイボーグに意識を移さなければならなかったのか。  博士の正体とは。  これは、世界救済と少女救出の一端――試行錯誤の半永久ループの中のたった一回…………それを著したものである。    ――そして、そんなシリアスの王道を無視した…………日常系仄々〈ほのぼの〉スラップスティッキーコメディ、かも? ですっ☆   ご注文はサイボーグですか?   はい! どうぞお召し上がり下さい☆ (笑顔で捻じ込む)

〈完結〉世界を大きくひっくり返しかき回し、またお前に会えたとしても。

江戸川ばた散歩
SF
「婚約破棄を力技で破棄させた理由と結果。」の元ネタ話。 時代は遠未来。ただ生活は現代のそれとそう変わらない。所詮食べ物だの着るものなどはそう変わるものではないということで。 舞台は星間統一国家を作った「帝都政府」と、それぞれ属国的な独立惑星国家のあるところ。 「帝国」と「属国」と思ってもらえばいいです。 その中の一つ「アルク」で軍におけるクーデター未遂事件の犯人が公開処刑されたことを皮切りに話ははじまる。 視点は途中までは「アルク」にて、大統領の愛人につけられたテルミンのもの。彼がその愛人を世話し見ているうちに帝都政府の派遣員とも関係を持ったり、愛人の復讐に手を貸したり、という。 中盤は流刑惑星「ライ」にて、記憶を失った男、通称「BP」が収容所で仲間と生き残り、やがて蜂起して脱出するまでの話。 後半は元大統領の愛人が政府を乗っ取った状態を覆すために過去の記憶が曖昧な脱走者達が裏社会とも手を組んだりして色々ひっくり返す話。 その中で生き残って会いたいと思う二人は存在するんだけど、十年という長い時間と出来事は、それぞれの気持ちを地味に変化させて行くという。 そんで出てくる人々の大半が男性なんでBL+ブロマンス要素満載。 カテゴリに迷ったけど、この設定のゆるゆる感はSFではなくファンタジーだろってことでカテゴリとタイトルと構成と視点書き換えで再投稿。 ……したはずなんですが、どうもこの中の人達、恋愛感情とかにばかり動かされてるよな、社会とかそれ以外の他人とか、ということでBLに更に変更。 適宜変えます(笑)。 初稿は25年近く昔のものです。 性描写がある章には※つきで。

処理中です...