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第三章 第三節 進撃の魔法少女
第520話 人間でなんかではありえない異形をしていた
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フロント・ウインドウの助手席側部分に、上空の映像が映しだされた。
上空に何本もの見えない道路が通っているのが見えた。スカイ・モービルがその上を滑るように走っている。いくつものレーンが多層的に重なり交差しているが、どのレーンもおびたただしい数の車がものすごいスピードで移動していた。
「あと20秒でレーンに乗り入れられます」
ブライトが手元のスイッチをいじりながら言った。李子はふと急に不安になって、リア・ウィンドウのほうを振り向いた。
四、五十メートルほど後方になにかが飛んでいた。
人間とおなじように直立し、四肢がついていた。だがあきらかに人間ではない。人間でなんかではありえない異形をしていた。
李子はあわてて目をそらすと、大声で運転席のブライトにむかって叫んだ。
「ブライトさん。急いでください。なにかが数十メートルうしろにいます!」
「あと数秒です。数秒でレーンに乗ります」
間に合わない——。
膝が抜けるような恐怖にとらわれた瞬間、一気に加速がかかり、強烈なGで前方にからだがふられた。スカイ・モービルが電磁誘導パルスレーンに乗り入れたのだとわかった。AIの運転ではあり得ないほど乱暴で、配慮にかけた合流だったが、おもわず安堵のため息が李子の口から漏れでた。
あっと言う間に車が猛スピードで空中を滑っていき、さきほど異様なシルエットを見せつけた追手は、みるみるうちに遥か後方の『点』になった。
「もう大丈夫です!」
ブライトが声高らかに宣言をした。なれない手動運転がうまくいったという高揚感もあるのだろう。すこし声が弾んで聞こえる。が、すぐに運転席のシートにぐっとからだを沈み込ませて、はあーっとおおきく嘆息した。
その姿をみて李子もからだの緊張を緩めた。たちまちからだ中の関節の各所がきしんだ。思っていた以上にからだを強ばらせていたらしい。
李子の口元がおもわずほころんだ。さきほどまでの頭がおかしくなるほどの恐怖から、一気に解き放たれて感情の緩急が制御ができずにいる。
しっかりしなさい。あなた精神科医でしょ——。
李子はそう自分を叱咤すると口元をひきしめ、車窓に目をやった。
そこには上空に設けられたスカイ・モービル用の見えない道路が何本も平行して走っていた。
化石エネルギーがほぼ使い尽くされて、エネルギーの効率化のために作られた『電磁誘導パルス』の道路。ここに車を乗り入れれば、この『電磁誘導パルス』の流れに乗って、高速で移動させてくれる。
車本体には最低限のエンジンモーターとバッテリしか積んでおらず、駐車するときか、おかしな気分に浮かれて地面を走りたくなったときくらいしか使わない。
高度によって民生用、業務用、軍事用などとレーンはわかれていて、バスや船、そしてデミリアンでさえも、その力で移動する。
この構想ができた当初は『空の川』と呼ばれていたらしいが、流れに乗ってただただ進んでいくのだから、言い得て妙と言っていいだろう。
上空に何本もの見えない道路が通っているのが見えた。スカイ・モービルがその上を滑るように走っている。いくつものレーンが多層的に重なり交差しているが、どのレーンもおびたただしい数の車がものすごいスピードで移動していた。
「あと20秒でレーンに乗り入れられます」
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四、五十メートルほど後方になにかが飛んでいた。
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間に合わない——。
膝が抜けるような恐怖にとらわれた瞬間、一気に加速がかかり、強烈なGで前方にからだがふられた。スカイ・モービルが電磁誘導パルスレーンに乗り入れたのだとわかった。AIの運転ではあり得ないほど乱暴で、配慮にかけた合流だったが、おもわず安堵のため息が李子の口から漏れでた。
あっと言う間に車が猛スピードで空中を滑っていき、さきほど異様なシルエットを見せつけた追手は、みるみるうちに遥か後方の『点』になった。
「もう大丈夫です!」
ブライトが声高らかに宣言をした。なれない手動運転がうまくいったという高揚感もあるのだろう。すこし声が弾んで聞こえる。が、すぐに運転席のシートにぐっとからだを沈み込ませて、はあーっとおおきく嘆息した。
その姿をみて李子もからだの緊張を緩めた。たちまちからだ中の関節の各所がきしんだ。思っていた以上にからだを強ばらせていたらしい。
李子の口元がおもわずほころんだ。さきほどまでの頭がおかしくなるほどの恐怖から、一気に解き放たれて感情の緩急が制御ができずにいる。
しっかりしなさい。あなた精神科医でしょ——。
李子はそう自分を叱咤すると口元をひきしめ、車窓に目をやった。
そこには上空に設けられたスカイ・モービル用の見えない道路が何本も平行して走っていた。
化石エネルギーがほぼ使い尽くされて、エネルギーの効率化のために作られた『電磁誘導パルス』の道路。ここに車を乗り入れれば、この『電磁誘導パルス』の流れに乗って、高速で移動させてくれる。
車本体には最低限のエンジンモーターとバッテリしか積んでおらず、駐車するときか、おかしな気分に浮かれて地面を走りたくなったときくらいしか使わない。
高度によって民生用、業務用、軍事用などとレーンはわかれていて、バスや船、そしてデミリアンでさえも、その力で移動する。
この構想ができた当初は『空の川』と呼ばれていたらしいが、流れに乗ってただただ進んでいくのだから、言い得て妙と言っていいだろう。
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