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第三章 第三節 進撃の魔法少女

第489話 メイ、あなた、このこと知ってたンでしょ

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「クララ、彼女はもう死んだんだ。どんな思いを打ちあけられても動じることは……」
「信じられません。もしあの亜獣があのひとの脳から思い出を吸い上げる能力を持っているとしたら、そのことばや思いは本物です。本当の思いなんですよ!」
「でももうこの世にいない。ぼくはそれを知ってる。だから惑わされることなんてない。信じてほしい」
 ヤマトは力強く否定した。そのことばには不退転の覚悟がこもって聞こえた。

 アスカはそのことばを信じることにした。
 パイロットとしてのアスカは——。
 だが、女としてのアスカは、それを許そうとしなかった。

「メイ、あなた、このこと知ってたンでしょ!。あなたは今のヤマトのことばを信じられるの?。答えて!」
 アスカは春日リンにくってかかった。ふいをつかれて一瞬狼狽ろうばいした様子が、画面を通じても感じられた。ひとびとの視線がリンに集中しはじめる。
 リンはすぐさまうんざりした表情を作ってみせた。
「アスカ、ごめんなさいね。私から言うべきことはなにもないわ。タケルくんが大丈夫というなら、大丈夫だという信じるだけ」
「じゃあ、デミリアンの責任者として、今までと同じようにすべてを任せられるってことね!」
 アスカは我ながらしつこいと思いながらも、執拗にことばを積み重ねていく。
 春日リンはほんの一瞬、天を仰ぐような仕草をみせた。アスカは目を見張った。
 戦いが終って緊張感から解放されたのは理解できる。だからと言って責任者が衆人の前でみせていい仕草ではない。

「メイ、あなた任せられないって思ってる!」
 アスカは機先を制した。本気で本音を引きだしたいわけではない。が、自分の中の女がヤマトのなにかを許せなかった。そのなにかの正体はわからなかったが、それを断罪しきれなければ、自分がおそろしく惨めな存在に感じられて死にたくなる——。
 本能的にそう感じた。

「そうね。アスカ、あなたの言う通りだわ……」
 リンは冗談のように簡単に白旗をあげてきた。
 アスカは足元が震えるような感覚に陥った。アスカはクララの様子を見た。腹立たしいことに、モニタ越しではどう感じているかわからなかった。すぐさまエドやアルの表情をうかがうが、ふたりともきわめて冷静を保っていた。ショートやミライは他人事ひとごとをきめこんで、モニタに視線すら向けていない。これではレイや草薙は参考にすらならないだろう。
 だがミサトだけは自分とおなじ感覚を抱いているようだった。
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