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第三章 第二節 魔法少女大戦

第461話 自分が欲している情報をぞんざいに扱っている

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 なにがわかったのだ?。
 
 エドはそう問いただしたい衝動にかられた。だが亜獣の専門家、ましてや国連軍の責任者である自分がそんな間抜け面を晒すわけにはいかない。

「ちょっとぉ、レイ。あんたたたち、なにか発見したならちゃんと報告しなさいよね」
 エドのぶざまな葛藤などをよそに、ミサトが友人の恋愛話でも訊くような無神経さで問うた。レイは困った顔を無理によそおって返事をした。

「ミサト、ごめんなさい。無用な混乱をおこしたくないからまだ言えない。仮説をもっと検証して確証をもてたら話すわ」
「な、なによぉ。どういうことなの。指揮官に報告できないなんて」
「ミサト、階級は関係ない。これはパイロットの生き死ににかかわる問題。むだに話を荒だてるわけにはいかない」
 レイはミサトの要求をピシャリとはねつけると、アスカもそれに追従した。
「そうよ。ミサト。こっちは命はって実験の被験者やらされてんのよ。その答えを簡単に言えるわけないでしょ。たとえ、あなたが司令官でもね」

 ミサトは恨めしそうな視線をむけたが、それ以上食い下がろうとはしなかった。エドはこころの底からがっかりした。すこしのヒントも、糸口もみることができなかった。
 だが、わかったことがひとつだけある。
 この仮説はおそらくパイロット全員が知っていて、その情報を共有しているということだ。だが今のたった5分程度の戦いの最中さなかに、彼らはどんな真実を見いだしたというのだ。
 エドは心のなかに生じた不安がしだいに大きくなっていくのを感じた。

「それはそうと、タケル。もう亜獣いなくなったんだから、あんた、とっとと降りてきなさいよ。今から実地で検証しなくちゃでしょ」
 アスカが上空を見あげて声をかけたが、ヤマトは嫌味をかわすようにサラリと反論した。
「アスカ、もう下に降りてるよ。もうすこしでそちらに着く」
 エドがマップに目をむけると、ヤマトは5キロほど離れた場所にとっくに着地していて、そこから街を横切ってアスカたちの元へむかっていた。

「タケルさん、こちらでもデータを収集してますから、必要なものがあったらお声がけください」
 クララがそうヤマトに進言するのが聞こえた。
 司令室内で発せられたクララの肉声に、エドはなぜか自分の領域に土足で踏みこまれたような居心地の悪さを覚えた。専門ではないパイロット、しかも新人、なおかつ女性が、自分が欲している情報をぞんざいに扱っている。
 これまでもヤマト・タケルはともかくとして、レイや春日リン、草薙素子に自分の専門分野で、先を越されたり、あからさまに否定され、煮え湯を飲まされていた。それにクララが追い討ちをかけようとしているように思えた。
 自分は性差別の意識のない人間だと自負していたのに、前回のアトンのときの失態以来、損なわれた信頼を取り戻そうと躍起になっているというのに、足元ばかりをすくわれている。

 この場から泣き叫んで逃げだしたい——。

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