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第三章 第二節 魔法少女大戦
第406話 フリートウッドの呪い
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『フリートウッドの呪い』——。
その部屋に収納されたもののは、数百年前エジプト王の墳墓を暴いた調査隊員が次々と謎の死をとげたという逸話になぞらえられて、そう呼ばれていた。
ロンドン・ウエアハウス社に勤務する警備員のアブドゥルは、そのような迷信がかった話は信じていなかったが、田舎街の倉庫の一角に隠されていた死体を発見した刑事が狂い死にしたとか、事故死をしたと知ればあまりいい気はしない。
その『墓』であばかれた現代版ミイラは、ロンドン警視庁管轄下で徹底的に調べられたのち、このロンドン・ウエアハウス社の倉庫に移送され、ふたたび元素凍結処理されて保管されていた。
この倉庫が選ばれたのは、ほかの倉庫と異なり、どんな瑣末なものでも単品管理できる点だった。ここでは一個一個の個体に生体チップがとりつけられ、すべての個体をカメラで監視している。そしてそれをAIシステムはもちろん、常駐された警備員による目視によって点検するという念のいれようだ。
そのためアブドゥルが警備の任に就くと、自動的に『網膜スクリーン』にこれらの監視映像が送られてきて、いやでも見せつけられるはめになる。
それは引き出しのなかに収納された個体を、カメラが順繰りに表示していき、一時間で一順するというプログラムだ。この周期が終業まで続く。
この『フリートウッドの呪い』案件は、ほとんどが人間の死体だったが、バラバラになった部位もおおく、それらも自動で繰り返し映し出される。
二人一組で警備につくため休憩中は映像は流れないが、当初は目を瞑っただけで映像が瞼の裏に浮かんで、食事もままならなかった覚えがある。今では完全に慣れて、死体や各パーツに愛称をつけて呼ぶほど馴染んでいたが、そもそもなぜAI管理システムがあるのに、わざわざ人間がこんな職務に携わらなければならないのかがいつも不思議だった。
「そりゃ、職を創出せにゃならんからでしょう」
いつもパートナーを組むイギーがへらへら笑いながら言ってきた。
イギーとはこの議論を嫌というほどしてきたが、勤務中はほかにすることもないので、日常会話がわりにこの話を蒸し返しては楽しんでいる。
「だけどこんな仕事、誰が申し込むんだ」
「アブドゥルさん、この仕事案外人気あるんスよ。体を動かさなくていいし、ただカメラの映像を見続けるだけなんスから」
「そいつら、その見続けるだけが、どれほど苦痛がわかってないんだよ」
「ま、そうっスね。ぼくもまさかこんなんだとは……」
「いや本来は希少な生物や植物を監視するんだが、まさかこんな気色の悪いモンを押しつけられったぁ、夢にも思わなかったぜ」
「でももう馴れたっショ」
「ん、まぁな。最初の頃は目ぇ瞑っただけで瞼の裏に浮かんでたからな」
「今じゃマスコットみたいに、愛称つけて……」
その時、網膜スクリーンに黒人女性の体が映しだされた。
その部屋に収納されたもののは、数百年前エジプト王の墳墓を暴いた調査隊員が次々と謎の死をとげたという逸話になぞらえられて、そう呼ばれていた。
ロンドン・ウエアハウス社に勤務する警備員のアブドゥルは、そのような迷信がかった話は信じていなかったが、田舎街の倉庫の一角に隠されていた死体を発見した刑事が狂い死にしたとか、事故死をしたと知ればあまりいい気はしない。
その『墓』であばかれた現代版ミイラは、ロンドン警視庁管轄下で徹底的に調べられたのち、このロンドン・ウエアハウス社の倉庫に移送され、ふたたび元素凍結処理されて保管されていた。
この倉庫が選ばれたのは、ほかの倉庫と異なり、どんな瑣末なものでも単品管理できる点だった。ここでは一個一個の個体に生体チップがとりつけられ、すべての個体をカメラで監視している。そしてそれをAIシステムはもちろん、常駐された警備員による目視によって点検するという念のいれようだ。
そのためアブドゥルが警備の任に就くと、自動的に『網膜スクリーン』にこれらの監視映像が送られてきて、いやでも見せつけられるはめになる。
それは引き出しのなかに収納された個体を、カメラが順繰りに表示していき、一時間で一順するというプログラムだ。この周期が終業まで続く。
この『フリートウッドの呪い』案件は、ほとんどが人間の死体だったが、バラバラになった部位もおおく、それらも自動で繰り返し映し出される。
二人一組で警備につくため休憩中は映像は流れないが、当初は目を瞑っただけで映像が瞼の裏に浮かんで、食事もままならなかった覚えがある。今では完全に慣れて、死体や各パーツに愛称をつけて呼ぶほど馴染んでいたが、そもそもなぜAI管理システムがあるのに、わざわざ人間がこんな職務に携わらなければならないのかがいつも不思議だった。
「そりゃ、職を創出せにゃならんからでしょう」
いつもパートナーを組むイギーがへらへら笑いながら言ってきた。
イギーとはこの議論を嫌というほどしてきたが、勤務中はほかにすることもないので、日常会話がわりにこの話を蒸し返しては楽しんでいる。
「だけどこんな仕事、誰が申し込むんだ」
「アブドゥルさん、この仕事案外人気あるんスよ。体を動かさなくていいし、ただカメラの映像を見続けるだけなんスから」
「そいつら、その見続けるだけが、どれほど苦痛がわかってないんだよ」
「ま、そうっスね。ぼくもまさかこんなんだとは……」
「いや本来は希少な生物や植物を監視するんだが、まさかこんな気色の悪いモンを押しつけられったぁ、夢にも思わなかったぜ」
「でももう馴れたっショ」
「ん、まぁな。最初の頃は目ぇ瞑っただけで瞼の裏に浮かんでたからな」
「今じゃマスコットみたいに、愛称つけて……」
その時、網膜スクリーンに黒人女性の体が映しだされた。
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