上 下
377 / 1,035
第三章 第二節 魔法少女大戦

第376話 人の命より優先される先権事項があるのですか?

しおりを挟む
 名指しされてリンとアルが一瞬だけ目を合わせた。
 そういうことね……。
 リンとアルもエドのような『専権事項』を抱えているのだ。責任者だけに受け継がれる、ヤマトですら知らない『武器』を隠し持っている。

「ですが、基地全体のセキュリティ、ひいては基地内のクルーの命にかかわることですよ」
 草薙がぴしゃりと言った。ヤマトにはそのときリンとアルが、すこし気後《きおく》れしたように見えた。
「魔法少女の存在が判明したときから、我々はこの基地に攻めこんでくる可能性を元にいくつものシミュレーションを描いて対策を練ってきました。そのなかには突然、基地内に出現する可能性も想定されていました。たとえば、学校、食堂、そしてパイロット・エリアなどをね。エド、あなたが事前にそのことを教えてくれていれば、無駄な時間を費さずにすんだんですよ」
 草薙の意見は冷淡で、言葉の端々に険がたっていたが、エドは微塵も動揺していなかった。
「草薙大佐。申し訳ないですね。でも、このことは、ぼくの専権事項ですから……」
 草薙がたちあがって、声をあらげた。
「人の命より優先される先権事項があるのですか?」

「ある」

 エドはたちあがった草薙を哀しげな目で見あげてから言った。
「残念ながらね。ぼくらの任務の前には……それがある……」
 エドは流し目をヤマトのほうにむけて言った。
「だって、そうだろ。タケルくん。きみの『専権事項』の『四解文書』がまさにそれだからね」
 ふいに草薙との言い争いに巻き込まれたので、ヤマトは不機嫌そうな表情をしてみせた。エドの行動を正当化するために、引きあいにだされてはたまらない。
「エド、それとこれとは次元がちがうよ」
 だがヤマトはエドの意見を、やんわりとした口調で否定した。責め立てるように聞こえては、エドがいつものように心を閉ざしかねない。
「次元がちがう……ね。まぁそうかもしれないね」
 が、ヤマトの配慮など鼻であしらうように、他人事のようにエドは答えた。
「では……。ぼくが隠し事をしていたことで、余計な手間をかけさせたというなら、草薙大佐には謝ることとしよう。でもあとのふたり、いやタケルくんも含めて三人には必要ないよね」
 ヤマトは目の前にいるエドの振舞いがいつもとちがうことに驚いた。いつものエドならなにはなくとも全員に詫びることからはじまる、と言っていい。詫びる人間を特定することで、ほかの者に共犯関係を暗にしいる、などという小賢しい真似は思いつきもしないはずだ。ましてや、先日、アトンの出現位置の特定を誤った一件以来、かなり自信をうしなっていたと聞いていたから、なおさら奇異に感じられた。
しおりを挟む

処理中です...