319 / 1,035
第三章 第一節 魔法少女
第318話 畜生ォォォォ。持って行かれたぁぁぁぁ
しおりを挟む
膝をがくんと折って、ヤマトが床にひれ伏す。糸がきれたマリオネットのように、あっという間に力をうしなったその姿に、春日リンの心臓は跳ね上がった。だが、からだは見えないなにかにつかまれたかのようにピクリとも動かない——。
が、草薙は動いた。
彼女は前に飛び出しその場に腰を落とすと、片膝をついたまま、ヤマトを正面から抱きかかえた。
「タケルくん。気を落ち着けなさい」
その口調は草薙のふだんからは想像できないほど、とても穏やかで慈愛に満ちたものだった。だが、ぎゅっとからだを抱きしめながら、今度は声をつよめる。
「我慢しなさい。我慢して、タケルくん。いえ、ヤマト・タケル!」
リンはなにもできなかった。
草薙に抱きしめられているヤマトの顔は、見たこともないほど苦渋にゆがんでいた。
悔しいとも、悲しいとも、苦しいともちがう、いやそのその全部をあわせたようなアンバランスな表情——。
口元が小刻みにふるえていた。目元が赤い——。
ヤマトは、『ヤマト・タケル』なら、見せてはならない表情をしていた。
「畜生ォォォォ。持って行かれたぁぁぁぁ……」
ヤマトの口から感情がほとばしった。
「ぼくの……、ぼくの一番大切な物をォォォォォ……」
その語尾は嗚咽のようになって聞こえなかった。
だがもうそれだけで緊急事態だった——。
リンは怖気におそわれた。これは史上最大級、といっていいほどの恐怖だ。
ヤマトの父、ヤマト・ナオエが百万人の人々の命を犠牲にし、己の揺るぎなき信念の元に作りあげた『ヤマト・タケル』という精密機械に、今おおきな狂いが生じようとしている——。
かすかな感情の揺らぎすらも自己のコントロール下におさめる『ヤマト・タケル』が、目の前で感情に揺さぶられている。もしこのことでヤマトが精神を乱したり、怒り狂ったりするようになったら、どうすればいいのだ——。
自分には、いや人類にはそれを鎮める術はない。
万が一、『ヤマト・タケル』という防波堤が機能不全に陥ってしまったとしたら、人類の歴史はここで終了となってしまうかもしれないのだ。
人類は亜獣に蹂躙され続け、地球の最期を座して待つしかなくなってしまうのだ。
が、草薙は動いた。
彼女は前に飛び出しその場に腰を落とすと、片膝をついたまま、ヤマトを正面から抱きかかえた。
「タケルくん。気を落ち着けなさい」
その口調は草薙のふだんからは想像できないほど、とても穏やかで慈愛に満ちたものだった。だが、ぎゅっとからだを抱きしめながら、今度は声をつよめる。
「我慢しなさい。我慢して、タケルくん。いえ、ヤマト・タケル!」
リンはなにもできなかった。
草薙に抱きしめられているヤマトの顔は、見たこともないほど苦渋にゆがんでいた。
悔しいとも、悲しいとも、苦しいともちがう、いやそのその全部をあわせたようなアンバランスな表情——。
口元が小刻みにふるえていた。目元が赤い——。
ヤマトは、『ヤマト・タケル』なら、見せてはならない表情をしていた。
「畜生ォォォォ。持って行かれたぁぁぁぁ……」
ヤマトの口から感情がほとばしった。
「ぼくの……、ぼくの一番大切な物をォォォォォ……」
その語尾は嗚咽のようになって聞こえなかった。
だがもうそれだけで緊急事態だった——。
リンは怖気におそわれた。これは史上最大級、といっていいほどの恐怖だ。
ヤマトの父、ヤマト・ナオエが百万人の人々の命を犠牲にし、己の揺るぎなき信念の元に作りあげた『ヤマト・タケル』という精密機械に、今おおきな狂いが生じようとしている——。
かすかな感情の揺らぎすらも自己のコントロール下におさめる『ヤマト・タケル』が、目の前で感情に揺さぶられている。もしこのことでヤマトが精神を乱したり、怒り狂ったりするようになったら、どうすればいいのだ——。
自分には、いや人類にはそれを鎮める術はない。
万が一、『ヤマト・タケル』という防波堤が機能不全に陥ってしまったとしたら、人類の歴史はここで終了となってしまうかもしれないのだ。
人類は亜獣に蹂躙され続け、地球の最期を座して待つしかなくなってしまうのだ。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
シグマの日常
Glace on!!!
SF
博士に助けられ、瀕死の事故から生還した志津馬は、「シグマ」というね――人型ロボットに意識を移し、サイボーグとなる。
彼は博士の頼みで、世界を救うためにある少女を助けることになる。
志津馬はタイムトラベルを用い、その少女を助けるべく奔走する。
彼女と出会い、幾人かの人や生命と出逢い、平和で退屈な、されど掛け替えのない日常を過ごしていく志津馬。
その果てに出合うのは、彼女の真相――そして志津馬自身の真相。
彼女の正体とは。
志津馬の正体とは。
なぜ志津馬が助けられたのか。
なぜ志津馬はサイボーグに意識を移さなければならなかったのか。
博士の正体とは。
これは、世界救済と少女救出の一端――試行錯誤の半永久ループの中のたった一回…………それを著したものである。
――そして、そんなシリアスの王道を無視した…………日常系仄々〈ほのぼの〉スラップスティッキーコメディ、かも? ですっ☆
ご注文はサイボーグですか?
はい! どうぞお召し上がり下さい☆ (笑顔で捻じ込む)
第一次世界大戦はウィルスが終わらせた・しかし第三次世界大戦はウィルスを終らせる為に始められた・bai/AI
パラレル・タイム
SF
この作品は創造論を元に30年前に『あすかあきお』さんの
コミック本とジョンタイターを初めとするタイムトラベラーや
シュタインズゲートとGATE(ゲート) 自衛隊 彼の地にて・斯く戦えり
アングロ・サクソン計画に影響されています
当時発行されたあすかあきおさんの作品を引っ張り出して再読すると『中国』が経済大国・
強大な軍事力を持つ超大国化や中東で
核戦争が始まる事は私の作品に大きな影響を与えましたが・一つだけ忘れていたのが
全世界に伝染病が蔓延して多くの方が無くなる部分を忘れていました
本編は反物質宇宙でアベが艦長を務める古代文明の戦闘艦アルディーンが
戦うだけでなく反物質人類の未来を切り開く話を再開しました
この話では主人公のアベが22世紀から21世紀にタイムトラベルした時に
分岐したパラレルワールドの話を『小説家になろう』で
『青い空とひまわりの花が咲く大地に生まれて』のタイトルで発表する準備に入っています
2023年2月24日第三話が書き上がり順次発表する予定です
話は2019年にウィルス2019が発生した
今の我々の世界に非常に近い世界です
物語は第四次世界大戦前夜の2038年からスタートします
Bless for Travel ~病弱ゲーマーはVRMMOで無双する~
NotWay
SF
20xx年、世に数多くのゲームが排出され数多くの名作が見つかる。しかしどれほどの名作が出ても未だに名作VRMMOは発表されていなかった。
「父さんな、ゲーム作ってみたんだ」
完全没入型VRMMOの発表に世界中は訝、それよりも大きく期待を寄せた。専用ハードの少数販売、そして抽選式のβテストの両方が叶った幸運なプレイヤーはゲームに入り……いずれもが夜明けまでプレイをやめることはなかった。
「第二の現実だ」とまで言わしめた世界。
Bless for Travel
そんな世界に降り立った開発者の息子は……病弱だった。
NPCが俺の嫁~リアルに連れ帰る為に攻略す~
ゆる弥
SF
親友に誘われたVRMMOゲーム現天獄《げんてんごく》というゲームの中で俺は運命の人を見つける。
それは現地人(NPC)だった。
その子にいい所を見せるべく活躍し、そして最終目標はゲームクリアの報酬による願い事をなんでも一つ叶えてくれるというもの。
「人が作ったVR空間のNPCと結婚なんて出来るわけねーだろ!?」
「誰が不可能だと決めたんだ!? 俺はネムさんと結婚すると決めた!」
こんなヤバいやつの話。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
私たちの試作機は最弱です
ミュート
SF
幼い頃から米軍で人型機動兵器【アーマード・ユニット】のパイロットとして活躍していた
主人公・城坂織姫は、とある作戦の最中にフレンドリーファイアで味方を殺めてしまう。
その恐怖が身を蝕み、引き金を引けなくなってしまった織姫は、
自身の姉・城坂聖奈が理事長を務める日本のAD総合学園へと編入する。
AD総合学園のパイロット科に所属する生徒会長・秋沢楠。
整備士の卵であるパートナー・明宮哨。
学園の治安を守る部隊の隊長を務める神崎紗彩子。
皆との触れ合いで心の傷を癒していた織姫。
後に彼は、これからの【戦争】という物を作り変え、
彼が【幸せに戦う事の出来る兵器】――最弱の試作機と出会う事となる。
※この作品は現在「ノベルアップ+」様、「小説家になろう!」様にも
同様の内容で掲載しており、現在は完結しております。
こちらのアルファポリス様掲載分は、一日五話更新しておりますので
続きが気になる場合はそちらでお読み頂けます。
※感想などももしお時間があれば、よろしくお願いします。
一つ一つ噛み締めて読ませて頂いております。
筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!
謎の人
SF
元気いっぱい恋する乙女の小学5年生 安部まりあ。
ある日突然彼女の前に現れたのは、願いを叶える魔獣『かがみん』だった。
まりあは、幼馴染である秋月灯夜との恋の成就を願い、魔力を授かり魔法少女となる決意を固める。
しかし、その願いは聞き届けられなかった。
彼への恋心は偽りのものだと看破され、失意の底に沈んだまりあは、ふとある日のことを思い出す。
夏休み初日、プールで溺れたまりあを助けてくれた、灯夜の優しさと逞しい筋肉。
そして気付いた。
抱いた気持ちは恋慕ではなく、筋肉への純粋な憧れであることに。
己の願いに気付いたまりあは覚醒し、魔法少女へと変身を遂げる。
いつの日か雄々しく美しい肉体を手に入れるため、日夜筋トレに励む少女の魔法に満ち溢れた日常が、今幕を開ける―――。
*小説家になろうでも投稿しています。
https://ncode.syosetu.com/n0925ff/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる